レンダー・ユアセルフ
──…いや、そうではなく単にこの男が今日乗り込んで来なければ良いだけの話だったのだ。だから感謝などしなくとも良いのだと、彼女は自らを叱咤した。
「美しい王女様、僕と踊ってくださいますか?」
目元を和らげてそう言葉を向けてくる青年。
誰が何と言おうとも相手は隣国の第一王子。
そんな地位にいる彼が礼儀の限りを尽くしてダンスを申し込めば、それを断る非常識な女はまず存在しないだろう。
ましてやアリアナは仮にも王女である。
多くの人目に触れるこの場で少しでも王子の気分を害するようなことあらば、間違いなく両国関係に影響する。
「よろこんで」
差し出された手を取り広場の中央へと進み出てゆく。
彼女がゆるやかな歩調をきざむ度に揺れ動く深紅のドレス。
大きく胸元のあいたデザインのそれは、豊満なアリアナの柔胸を言うまでもなく強調していた。