レンダー・ユアセルフ
「聞いているの?」
黙り込んだジーファを不審に思ったアリアナが畳み掛けてくる。
このときばかりは彼もアリアナを少し憎らしく感じたものだ。ジーファの自身をも凌駕するほどの葛藤を露知らぬ彼女の姿が、ぼんやりと霞んで映る。
その間にも彼らの脚は優雅にステップを踏んでいく。他の人間には知られたくない会話を、この二人はダンスという手段の中で交わすことに成功していた。
「……きみは、」
核心を突きかけた自らの口を瞬時に引き結ぶジーファ。
アリアナの視線もそれを確かに捉えていた。平素の、傲岸不遜な態度を見せるジーファの姿からは想像も付かなかったその仕草。
──…一体、どうしたというの?
アリアナの胸奥にも動揺が芽を出してしまう。
一方のジーファはと言うと、情けなくも本音で情を買おうとした自らを心底呪っていた。
同情で傍に居てもらいたいわけではなかったのだ。アリアナには、彼自身を見て欲しかった。
だからこそ、その胸中を生い茂る獰猛とも言うべき情熱は、まだ口にしたくはなかった。
たとえ、蛇蝎のごとく忌嫌われようとも。忌憚され、軽蔑されようとも。
「いや、なんでもない。…そうとも、アリアナ。僕はあの夜、きみの純潔を奪った」
アリアナの鋭い憎しみをその、愛すべき瞳で睨み据えられたとしても。
彼はまるで歯牙にも掛けないといった面持ちで、自身の行動を貫くより道はなかったのだ。
彼女を他の男の花嫁にしてしまうことを思えば、憎まれるほうがましだと思ってのことだった。