レンダー・ユアセルフ
時は暫し遡る──。
それはジーファがアリアナの私室に入り込んだ宵の、明け方のこと。重い瞼を懸命に持ち上げながら、ずきりと鈍痛を訴える頭を隻手で押さえるアリアナ。
天衣無縫を自我とするアリアナは、その派手な外見からは意外さを感じるほど貞淑な女性でもあった。
周囲が色事に興じる年頃となった今でさえ、まるで韜晦《とうかい》するかのごとくである。
しかしながら、なにも恋愛に全く興味がないわけではない。いつか異国の優しい王子に嫁ぐことを夢見ているのだから、彼女も大概ロマンチストである。
…異国の王子。それだけならば彼にも当て嵌まりそうなものだが、残念ながら彼女はジーファに対し好ましい感情を抱いてはいなかった。
「(頭が痛い……まるで二日酔いじゃない)」
完全に身を起こしたところで、駆け抜けるように昨夜の顛末が脳裏に蘇る。
眩いほどの金髪。そして彼女を見つめる、深い海を思わせるサファイアの瞳。
その男に、微量とはいえ睡眠薬を飲まされたのだ。優しい王子のすることではない。冗談ではないと、起き抜けの上手く働かない頭で思惟に耽る。
そして自らの身体を覆っていたシーツを持ち上げたところで、まさかの事態に目が飛び出してしまうほど瞠目した。
「はッ、裸!?」
思わず叫んでしまった華奢な口を両手で押さえ込む。