レンダー・ユアセルフ
もしもこの先逢うことがなければ、無理矢理にでも忘れられたかもしれない。
しかしながら数時間もおかずに訪れたユースヒトリに関する講義によって、そんな彼女の思いは木端微塵に崩れ去ってしまう。
あんな男のもとになど嫁ぎたくなかった。けれど、にこにこと相好を崩しながら隣でアリアナを激励する姉に向かってそんなことが言えるはずもなく。
ちらりと気まずい視線を向けることで気付いてもらえないだろうか。今の彼女には、そんな些細なメッセージを送ることが限界だった。
「どうしたの?アリアナ。顔色が優れないじゃない」
敏い姉はすぐに彼女の変化を察知する。嬉しくなったアリアナが訴えるように何度も肯くと、次の講師を待っている二人だけの空間に沈黙がおちた。
「もしかして…」
暫しの逡巡を経ておもむろに口を開いた姉、リリアをしかと見つめる。
まさか嫁ぎたくない気持ちに気付いてくれたのだろうか?先の言葉を期待しながら輝く瞳で、美人と評判のリリアを凝視する。
たった一人の姉。いつも二人で支え合って生きてきたのだ、このアリアナの心情をそんな彼女が理解できないわけが──