レンダー・ユアセルフ
「(……体《てい》の良いことを言うものね)」
ふんと荒い鼻息をおとしたくなる。どうやってジーファに取り入ったのか、ユースヒトリの財を狙う小国ごときが、……さしずめ本心はそんなところだろう。
全く彼女の心が伴わないままに、こうして婚約パーティが催されるまでに至ってしまったことを内心嘆く。
結婚に本人の意思は必要ではない。それはアリアナを含め王族の出自たる人間全てに通ずる認識でもあった。
しかしながら、元来彼女の父はアリアナの意思を無視し政略結婚を推し進めようとする人間ではなかった。
それが彼女の心に余裕を持たせていたことは事実であり、また、目に見えて拒絶しないアリアナの姿に結婚に反する意思がないと汲み取ったのは父の独断であった。
そこが彼女の誤算であったのだ。
「これはこれは。御挨拶を賜り誠に有難う存じます……コターニャ侯爵」
そうそう。言われてみればそのような名前だったかもしれないと、ジーファの発言を見上げつつ内心独り言をこぼすアリアナ。
最大限の礼儀を尽くしつつも、燃えるように眼光を尖らせるジーファを見て彼の心情を悟る。
同じ気持ちを共有していると知れば気に食わないところだが、今はジーファに対し僅かな仲間意識を覚えた彼女である。それほどまでに、この侯爵の醸す雰囲気は気に障る。