レンダー・ユアセルフ
自らの中で「あの王子とは結婚しない」と決断を下したことは、彼女の日常生活においても明瞭な変化をもたらした。
嫁ぐつもりもないのだから、ユースヒトリに関する知識を深めたところで何も意味を持ち得ないと。そう覚ってしまったからである。
「……」
朝、目覚めたアリアナの脳裏を擽る誘惑。
また城下町に足を伸ばしたい。しかしながら、そのためにまた侍女を身代わりにするわけにはいかなかった。
何かの間違いで先日のような事態に陥れば、真っ先に疑われてしまうのは身代わりの侍女である。
「(どうにかして、抜けられないかしら)」
奥歯を噛み締めながらアリアナは思案する。
両親に直談判することも選択肢の一つではあったものの、もうここまで話が進んでしまった以上あまり意味のない行為に思えた。
それに彼女自身がジーファとの婚姻に否定的だと知られれば、今まで以上に監視の目が厳しくなることも確かなことで。
ただでさえ以前抜け出して警戒されているのだから、迂闊な行動は取れないだろう。
……婚約まで漕ぎ着けておいてこの縁談を白紙にすることは、他国におけるチューリアの評判をどん底に突き落としてしまうのかもしれない。
そうなれば、すでに嫁いでいる姉にも迷惑が掛かるかもしれない。
全ては推論に違いなかったが、限りなく可能性の高い推察と言えた。