レンダー・ユアセルフ
「……何でもありませんわ。ただ、ちょっと、古い知り合いで…」
「アリー、そんなことを言うんだ?僕らの仲なのに」
「ちょっと!」
機転を利かせて彼女の本名を口にしなかった彼の判断は賢明であり、アリアナも一つ安堵したのは確かである。
しかしながら、明らかに含みをもたせて後続されたジョシュアの台詞に驚きを隠せなかったことは事実なわけで。
狼狽を前面に押し出し慌てだしたアリアナの様子を、彼は至極愉しげに見つめていた。
「アリーちゃんは秘密主義者だからなぁ。俺なんか、知り合って大分経つけど…いまだに『王宮の使用人』ってことしか教えられていないからなぁ」
「そうなの?店主さん、アリーと付き合い長いんだ?」
「そうさぁ。アリーちゃんは今や、この酒場の看板娘ってところだろうよ。何せ、アリーちゃん目当てで通っている連中だって居るくらいだからなぁ」
「へぇ、そんなに?」
酒場の店主とジョシュアのやり取りを、頻りに気を揉みながら見守るアリアナ。
何か変なことを口走らないかどうか不安で仕方ないのだ。…それは勿論、ジョシュアに関して。
彼の生まれ持つ柔い茶髪が店内の照明を受けて煌めいている。
色素の薄い、茶と薄墨の混じた水晶のような瞳に見据えられると訳もなく焦燥に駆られる。