レンダー・ユアセルフ
先ほどのように立ち竦んだまま話をしていたときとは状況がまるで違う。
彼らほど高位なる人間など居るはずもなく、周囲はまるでビーズのようにほろほろと道を譲り、気付けばアリアナとジーファの周りにだけぽっかりと空間ができていた。
遠巻きに見つめる瞳が数多く存在するにしろ、これならば誰にも会話を聞かれる心配はあるまい。
「貴方……自分のしたことが解っているのかしら。それともその脳みそはただのお飾り?」
「いきなり斬り込んでくるね、きみは」
優雅なステップをきざみながら交わされる会話は、まるで豆を挽き過ぎた珈琲のように苦い。
一見苦笑しているように見えるジーファ王子だったが、事実その腹心では正反対の色で満ち溢れていることだろう。
互いの顔を近付けながら囁き合うその様は一見して、そう、睦まじく愛を交わす恋人同士に見えるのかもしれない。
現に頬を朱色に染めてほうっと息を吐く年頃の令嬢の姿がいくつも窺える。