レンダー・ユアセルフ
王宮内に彼女の失踪が知れ渡った、丁度その頃。
「逃げるって…、一体、どこに?」
「シャムスだよ。僕の恋人として連れていく」
「そんな!そんなことをしたら、ジョシュアの国が──」
「…チューリアとユースヒトリから狙われるかもしれない。そう言いたいんでしょ?」
思わず口を噤んで言葉をのみこむ。動揺を顕わにするアリアナとは対照的に、ジョシュアは至極穏やかな笑みで滔々と語り出した。
「だろうね。いくら以前親交があったといっても、きみとユースヒトリの王子の婚約話が出てからはすっかり疎遠になってしまっていたから。…アリアナには、僕のほうが先に求婚の文を送ったんだけど…届いてない?」
気まずく視線を逸らしながら首を横に振る。わかっていたのだ、以前──ジーファに婚約へと持ち込まれる前に、他隣国の王子より縁談の便りが届いていたことは。
でも、まさかそれがジョシュアだったなんて。これまで彼を王族とは何の関係もない幼馴染だと思っていたからこそ、気付かずに居ることは仕方のないことで。
「きみのことだから、きっと読んでくれないだろうとは思っていたよ。…チューリア国王のことが大好きでしょ?だから、もし国王に『シャムスに嫁ぐように』って言われたら、すぐに了承するとも思ってた。…だからどっちにしても、きみと結ばれるだろうって信じて疑わなかったんだ」
そこまで言い切ったジョシュアがおもむろに視線を持ち上げ、色素の薄い水晶とアリアナの蜂蜜色のそれが搗ち合う。