レンダー・ユアセルフ
彼の瞳孔の奥に潜む情熱が、アリアナにまっすぐに向けられていることを感じて彼女は尚も口を噤んでいた。
「それなのに」
悔しげに続けられるジョシュアの言葉は、幼いころから親しいだけに彼女の心を大きく揺さぶりかけてくる。
「……予想外だった、本当に信じられなかったよ。まさかそのタイミングで、きみがユースヒトリの王子に見初められるなんて」
「ジョシュア、それは違うわ…」
「違わないさ。だって男なら誰でも、惹かれてしまうような魅力が君にはあるから。凛として強くて、芯がしっかりしていて…決して驕らず、分け隔てなく皆に優しい」
「そんな」
「だからこそ後悔したんだ。なんでもっと早くきみに本当のことを言って、『将来結婚しよう』って言わなかったんだ、って」
続けざまに告げられる彼女を褒める言葉と、彼女を想うジョシュアの気持ち。
そのストレートさに思わず赤面してしまうアリアナだったが、ふと真摯さを取り戻したジョシュアの表情に釣られて顔を強張らせる。
「アリアナ」
真剣な表情、声音、そしてはっきりした二重の瞳。
「──僕と一緒に逃げてくれない?お願いだから」
ここまで言われて、彼女には断ることも肯くこともできずに居た。
心配なことが二つあったからだ。家族のことも勿論そうだし、何より懇意にしていたチューリアとシャムスが仲違いしてしまうことが嫌だった。