レンダー・ユアセルフ
/哀しみの面差し
シャムスに入ったのは夜の帳が下りて直ぐのこと。
遠ざかるチューリアに比例して俯きがちになるアリアナを、何とか励まそうと明るい話題を振り続けたジョシュア。連れだした張本人である彼もまた、人知れず罪悪感に苛まれていた。
「アリアナ。着いたよ」
「……ん、」
「王宮だ。もうとっくにシャムスだよ」
国境付近で既に黒い布を被っていたアリアナは、唯一覗かせている瞼を薄らと持ち上げる。
そして一足先に馬車から降りていたジョシュアが隻手を伸ばし、彼女の華奢な手をゆっくりと引く。その流れに任せて下車するアリアナ特有の髪が、夜風に乗って波打っていた。
「もう遅いから、国王への拝謁は明日にしよう」
「国王って……ジョシュアのお父様?」
「……世間的にはそうだけど。他人だと思ったほうがいい」
ふと見せる彼の表情にまどろんでいた意識が一気に覚醒した。初めて見るそれに思わず息をのむアリアナ。
──何て、冷たい表情…。
「あっちも僕のことは子供だと思っていないから。血が繋がってなかったら、間違いなく捨てられてたよ」
その瞬間に脳裏へと浮上したのは遠い記憶。出逢って間も無い、彼の姿だった。
蛇蝎のごとく睨め付けてくる幼顔の少年は、明らかにアリアナを敵と見做していた。
「こっちだって別に父親だとは思ってない。母親だって同じだ」
「……ジョシュア」
彼が今晒している表情は、まさにあの時彼女へと向けていたものと同じだったのだ。