レンダー・ユアセルフ
/シャムス国王への拝謁
小鳥の囀りが鼓膜を震わせ、長い蜂蜜色の睫毛を瞬かせたアリアナは朝を迎え目覚める。
「──…、ここは……」
薄らと開く視界に飛び込んでくる明るい景色。
瀟洒な造りの室内を見渡すと、見覚えのないその内装に一気に脳が覚醒する。
走馬灯のように昨夜のことが思い出され、大人ふたりは容易に寝そべられるベッドから飛び起きた彼女は、慌てて壁に掛けていた黒い布を頭から一気に被った。
そしてタイミングをはかったかの様に響き渡る、ノックの音。
「はい」
毅然とした態度で応える彼女に対し、王宮に仕える女性の声が向けられる。
「マダム。お支度のお手伝いに伺いました。お邪魔しても?」
「……それくらい自分でできますわ。私のせいで仕事を増やしてしまうのは忍びないです」
あながち嘘でもない台詞であった。元来、あらゆる場所へと羽を伸ばしてしまう性格をもつ彼女は、正装以外であれば大抵自分の力で着こなす術を身に着けていた。
他の王族たる女性が聞けば耳を疑うことであろうが、アリアナにとって身支度は他の人間に手伝ってもらうことではないとさえ思っていた。
「しかし、ジョシュア様の御用命ですので…」
戸惑った様子の使用人が小さな声でそう告げる。
僅かに眉根を寄せるアリアナだったが、それもそうかもしれないと直ぐに納得した。
彼女の容姿は自国の貴族ですら知る者は少ないのだ。他国ともなれば、ジョシュアとその両親ほどに限られてしまうだろう。