レンダー・ユアセルフ
しかしながら、アリアナ自身冷静にこの場の成り行きを見守ることができたわけではない。剰え矛先が自分へと向けられたのだから、彼女の心は一気にざわめきに支配される。
「その方。如何様に考えておるのだ?」
静謐な時が訪れる。この場に居る全ての人間の注視が彼女へと向けられていた。
震えそうになる唇を黒布の内で噛み締め、薄らと息を吐いたアリアナは心を決する。
「私は」
───…わたくしは……。
その瞬間に彼女の脳裏を駆け巡る記憶は、明らかに場違いなものであり他ならぬアリアナ自身が酷く狼狽してしまう。何故こんなときに関係の無い人間を思い起こすのか。
邪念を取り払うように唯一覗く瞳を伏せた彼女は、誰が聞いても揺れなど微塵も感じることのない、凛とした音韻を空間に響かせた。
「──ジョシュア様は心より尊敬する御方であり、大切な存在でございます。少しでも助けになれるならば、これからも御傍で支えさせていただけると光栄至極に存じます」
それは違うことのない本心のように思えて実はそうでは無いことは、当のアリアナではなく隣で彼女を見つめる茶髪の青年が感じ取ってしまっていた。
その実態を知らぬ彼女は真直ぐと国王夫妻に視線を向けている。
暫しの間訪れた静寂を打ち破るように口を開いたのが、これまで無言を貫いてきた王妃その人であることに、アリアナだけではなくジョシュアも目を瞠る。
「……未亡人など言語道断。わたくしは認めなくてよ」