レンダー・ユアセルフ
◇
「……あの人の考えていることは、本当に分からないね」
「国王様のこと?」
シャムス王宮内は、チューリアのそれに劣らず瀟洒な造りとなっていた。
国王ならびに王妃への謁見を済ませた彼らは、長く続く廊下を歩きながら声を潜めて会話を交わす。
首を傾げるようにして問いを投げたアリアナ。彼女に応えるように軽く肯いたジョシュアは、眉間に寄せられる皺もそのままに続きの言葉を口にした。
「父は母の意見をそのまま鵜呑みにする男だったんだ。……少なくとも、ごく最近までは」
「そうなの?」
「うん。だからこそ余り良い顔はされないだろうなって覚悟してたんだけど、ちょっと拍子抜け」
それが指す意味は恐らく、アリアナとの婚姻を強く望んでいた王妃の態度に関係するだろう。
この王宮にて先刻国王夫妻の前に拝謁した未亡人の正体はアリアナだが、先に述べた通りそれを知る者はジョシュア一人に限られる。そのため、国王ならびに王妃が、この場にアリアナが居ることを知る筈もないのだ。
だからこそ、事態を把握するには『未亡人』と『アリアナ王女』は別人と考える必要がある。
初めて顔を合わせたジョシュアの恋人だと云う『未亡人』の前で、息子は『アリアナ王女』と結婚させるつもりだと言った王妃の考えにもしも国王が同調していたら。
『未亡人』としての彼女の存在は認められず、シャムスを追われる事態になっていたのではないだろうか。
「もしも国王様が今まで通りの行動を取っていたら、どうするつもりだったの?」
──つまり、今まで通りに王妃の主張を鵜呑みにしていたら。