レンダー・ユアセルフ
「マダム。そんなことを気になさる必要はございません。私は、居るべくしてこの場に存在するしがない使用人なのですから」
「…でも、私が居なかったら王妃様の身辺に控える立場だったのでしょう?」
「余り大きくは言えないのですが」
含みを思わせる言葉だけを吐き出して、おずおずとアリアナに身を寄せたミーア。
彼女の澄んだ瞳で覗きこむように目を合わせられると、何故か後ろめたい感情が湧き出し視線を逸らしたくなってしまう。
「わたくしは日頃、王妃様に奴隷のごとく扱われておりました。ですので、今はとても嬉しゅうございます」
「嬉しい?」
「アリー様は使用人である私のことまで気に掛けてくださいます。御自分の立場に思い悩まれておられるのやもしれませんが、どうか胸を張ってください。ジョシュア様の大切な御方という相応すぎるものが、私の仕える十分な理由にございます」
しかしながら、向けられたミーアの一言はアリアナの意表を突くには充分すぎるものだった。
想像すらも付かなかった台詞。疎ましい存在だと思われているに違いない──疑うことなくそう決め付けていた彼女は、「嬉しい」と口にしたミーアの言葉が果たして本音であるのかどうかをはかりかね、動揺してしまう。