君の笑顔は、俺が絶対守るから。

天使にぎゅっと抱きしめられて、嬉しくてたまらないのに、握られたままの左手に意識が集中してしまい、反応できない。


一ノ瀬くんはずるい。

彼女がいるくせに、こんな思わせぶりなことしないでよ。


でも何より、彼女がいる人に手を握られて喜んでいる自分が、恥ずかしかった。


「お隣さんにもお願いしていくから、何かあったら頼るのよ」

「ああ。親父によろしく」

「お母さん! お父さんに今度いつ帰ってこられるか聞いてきてね!」

「そうね。しばらく帰ってきてないものね」


それからしばらく家族の会話が続いた。

その間ずっと私の手は握られたままだったのだけれど、私は最後まで握り返すことができなかった。



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