僕の宝もの
小さな頃はごく当然なことのように繰り返されてきたことは、ある日を境に形を変えた。恥じるように、女装をしてもいいかと、湊は僕の家にある膨大な洋服に袖を通す。
僕の母親は洋服のデザイナーをしていて、家にはもう自由にしていい洋服が専用の部屋に吊るされている。昔は、両親がそれを僕に着せモデルとして撮影に連れていかれたりもした。……黒歴史だ。仕方ないだろう。母親デザインのジャンルはロリータ系のレディースものだ。ゆりかごから墓場までをモットーに、全年齢型の女子たちの夢見る服を作っている。
僕は自我が目覚めて即スカートたちから卒業した。
僕と一緒に着せ替えさせられていた湊は、僕が卒業してからもフリルやリボンやレースに身を包んで遊んでいた。
「宗十郎、……やっぱりそっちに出ていなかないと駄目なのか?」
「当然」
ある日を境に、それはおかしなことなんだと一切をやめてしまった湊は、誰かの目がある日常から一切の可愛らしさを消去した。けど本当は可愛らしいもの全てを愛するやつで、自分の本質と世間の目の間で苦しんでいた。
だから僕は、それはおかしなことではないのだからと、悩む湊を僕の家に連れ込み、色とりどりの洋服から好きなものを選ばせては着せた。