僕の宝もの
キッチンでコーヒーと、湊用のは最早コーヒーの味なんかするのかと疑う砂糖とミルクたっぷりのカフェオレを用意して僕の部屋に戻ると、湊はクッションに座り、その背筋はお行儀よくぴんと伸ばされていた。湊自身が選んだものよりもう少しオレンジの入ったピンクのワンピースを着た湊は、なんだかとても恥ずかしそうだけど、凛々しくていい。
「今日はいつもよりリボンとか少ないな」
「あっ、うん。そうかも。別にフリルとかばっかが、好きなわけじゃあ……」
それ以上テイストについて語るのはやめた。
「湊。僕さ」
「うん」
「進路変えることにした」
「えっ、こんな時期に?」
「母親と同じ道目指そうと思って。幸い、ひとかけらも能力がないとは言われなかったし反対されなかったし、道しるべには困らないし、やりたいと思ったし」
床に積み上げられているのは、デザインしてきたスケッチブックたちだ。
「そ、そっか。――でも、宗十郎なら大丈夫だよ。こんな女装にも根気よく付き合ってくれて、的確なアドバイスもくれるし」
自虐的な言葉を吐いてから、湊は僕が選んだワンピースをふわりと嬉しそうにつまみあげた。
「で」
「で?」
「で、僕は湊の着るもの全てをデザインするようになるよ。湊が、本当はこんな可愛い女の子だったってわからせるために。湊がちゃんと着たいものを着れるように。もう湊が、誰かの言葉で傷ついて、女の子を捨ててしまわないように。おしゃれを、女装なんて言葉にしなくてもいいんだ」
「っ」