幼なじみの甘い甘い焦らし方

生い茂った木々に身を潜めて、そっと声の聞こえた方を覗く。
見えたのは短いスカートを履いた女の子。

(あ。うちの制服だ...。同じ学校の子なのかな)

顔はよく見えないけど、背は高くて髪は長い。
雰囲気はとても美人だった。

そんな子にあんなドラマ的なセリフを言わせる相手は一体どんな人なのか...。
好奇心に囚われていた私は、躊躇なく身を乗り出す。
そして、

「っ!」

とてもよく知っている顔を見つけ、目を見開く。
つい声を上げそうになったのを必死にこらえた代わりに、制服の裾を木の枝に引っ掛けてしまった。

"ガサッ"

制服に引っ張られた草木が音を立てて揺れる。

(...っ、やばっ)

見つかる!と私は慌てて身を縮こませる。

「.........」

いけないことをしている自覚があるからか、もう心臓はバクバクだ。

(...ば、バレてないよね?)

一瞬男の子がこちらを見た気がしたけど、私がいることは多分バレてない...と思う。
ひとの修羅場を盗み見してるところなんか見られたくないよ。

相手があの"榛名"なら尚更だ。

(...まさかとは思ったけど、ここでもまた榛名かぁ)

そう。
美人そうな女の子が必死になっていた相手は、王子様こと水谷川榛名。

「お願い、榛名...っ。私と付き合ってよぉ..っ」

泣きながら懇願する女の子。
チラリと見えた彼女の顔はやっぱりとても整っていた。
そんな子が泣いてまで付き合いたいと思う相手なんだ...。

(....やっぱりすごいや、榛名は)

物陰に身を潜めながら、痛む左胸の前できゅっと手を握りしめた。


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