月夜の砂漠に一つ星煌めく
「前の妃?マリエフ?」

震える声で、俺は繰り返した。

実の母がいる事、母の身分、もちろん母の名前を聞くのも、生まれて初めてだったんだ。


「マリエフ前妃様は、それはそれは、お美しい方でいらっしゃいました。」

女中は、俺の背中をずっと、撫でてくれていた。

「ですが、アラビア随一の美姫を、他の国の王が、見過ごす訳がございませんでした。マリエフ様は、現国王の遠征中に連れ去られ、囚われの身になったのです。」

「えっ?母上が?」

頷いた女中の目にも、涙が溢れていた。

「もちろん、現国王は救出に向かい、マリエフ様はこの宮殿に戻って来られました。ですが、その時にはお腹の中に、お子がおられたのです。」

「……どういう、意味だ?」

「……敵にお子を、孕ませられたと言えば、お分かりになりますか?」

震えながら、涙を流しながら、女中は次の言葉を、俺に告げた。

「それが、ジャラール王子。あなた様です。」
< 40 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop