好都合な仮死
「……首つりはもっとグロいじゃないですか」
薄い色の唇が動いた。猫目に引かれたアイラインからは想像できないほど、弱々しく鈴のような声だった。
「きったないっすよね、あれ。誰にも見つからないならまだしも。富士山の青木ヶ原樹海ならその他死体に紛れられるっすよね」
「あそこは、樹海に入る前に踏みとどまるような看板が置いてあって萎えたわ」
「ぶはっ、行ったんすか。しかも帰ってきたんすか」
笑った俺を、女の鋭い眼光が射貫く。
それでも緩めた口元を閉じない俺を、苛立ったように女は視線を明後日の方へ向けた。
俺は唇の片端をあげたまま、100円玉を1枚、レジから取り出す。
それを指の隙間にはさんで、女に言う。
「どうせなら、俺と一緒に死にません?」
「は?」
女は眉根を寄せて、俺をにらみあげる。