好都合な仮死








「1000円札、あったでしょ」

「……」

「それなのにわざわざおつりの多い1万円を選んだのか」








女が戸惑いを隠すように、唇を堅く結んだ。





さきほどまで死んだ目だったのに、今ではまるで警察に罪を突き止められた罪人のようだ。






俺は100円玉をテーブルの上に置く。人はこれを欲しいという。死んだら無価値に成り下がるそれを、命よりも大事だと謳うやつがいる。









「樹海に行って、自殺防止のために立てられた看板を見て帰ってきて、」

「……」

「家にもいくらでもあるはずなのに、わざわざコンビニやってきて遺書用の紙とペンを買う」

「……」








矛盾。矛盾。矛盾。ああ、気持ち悪いな。やってらんねえよ。






俺が死んだ目で見る女の目には、涙。








「死にたくないなら今すぐ家に帰って暖かい布団で寝てろ」







そう言って、レジから316円を取り出し、レジの上に置く。







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