世継ぎで舞姫の君に恋をする
9、隠蔽
ユーディアは髪をすべてほどいた。
「水を!頭を洗う!」
ユーディアは見回して、飲料水用の大きな樽を見つけると、桶で水をすくい一気に頭から被る。
頭だけではなく、服も、下着も、さらに靴の中までひたひたになる。
「ああ、そんな頭の洗い方、駄目です!」
この期に及んで、サラサは年頃の女子である。
幌馬車に飛び込むと石鹸を借りてきた。
「もう、ユーディアさまは言い出したらやめませんし、その、ジプサムとのお話ができるように、成功率をあげてあげます!
その汗臭いというか、動物臭を落とさなくては!全身!
あの檻は人間用ではないですよ?
獣用、、、そう、きっとトラ用です!」
そして、なすすべなく立つ三人の男をギロリと見る。
「あんたたちはさらに臭い!先に帰るか、残るなら、体でもしっかり洗って着替えてください。ゼプシーの服を借りるといいでしょう。
加えていうなら、あんたたちも頭をカットすれば逃走成功率が上がりますよ?」
カカが何かをいいかけると、
「髪がモルガンの男の誇りなんて、笑わせます!
体を洗うにしろ、髪を切るにしろ、ベルゼラ兵は宴と女に夢中です!
気がつかれませんから!」
そういえば、捕られながらもジプサムに唾を吐きかけたのは女だった。
女はいざとなったら強いな、と彼らは思う。
ユーディアは促されるまますべての服を脱いだ。
8つの頃は、彼らが持っているものを持っていなかったが、いまは彼らにはないものをその胸に備えている。
紛れもなく女性の体である。
慌てて三人は、目をそらしたのだった。
ジプサムは宴を縫うように歩く。
そのすぐ後ろにはジプサムの影のようにサニジン。
彼は15の時からもう4年一緒である。
父王が付けた側近である。
年もジプサムより二つ上で、護衛としての腕前も確か。
彼と父の間の繋がりはあるだろうが、それが気にならないほど、サニジンは自分の側近の役目に徹している。
「王子は甘いな!蛮族を解放するなんて馬鹿者だ」
そんな兵たちの会話があちこちで聞こえる。
「だが、モルガンが汚ないって誰がいっていた?あの残った捕虜の男をみたか?きれいな顔立ちをしていた!見に行こうぜ!」
「いや、こっちの方が楽しいから、明日にしとけ!いくらでも見れるから。
そんなに気になるんだったら、捕虜の払い受けでもするか?」
捕虜の払い受けとは、戦争などで捕らえられた捕虜を、男なら過酷な炭鉱労働に購入したり、女なら家事労働やその他、愛人にしたりなど、自由にできる制度である。
払い受けられた者は、奴隷となる。
奴隷から自由を得るには、購入された額と同額か、それ以上の金額を、自分の主人に払わないといけない。
その金額を出すのは自分でも良いが、捕虜の祖国の家族などが、取り戻すために支払われることが多い。
ベルゼラ国は、戦争捕虜を金に変えるのである。
なので、せっかくとらえた捕虜たちを髪を切ったぐらいで解放したジプサム王子は、ベルゼラ王軍では、ものを知らないお坊ちゃんなのである。
戦争には表と裏がある。
「黙らせましょうか?」
サニジンが静かに言う。
「いや、いい。本音が聞ける場はそうないからな」
ジプサムは戦争捕虜の売買など反対である。
そもそも戦争自体、欲に目の眩んだ馬鹿げた愚か者のすることだと思っている。
だが、今回も父王の意図した通り、自分は動くことになった。
ユーディアの命乞いに乗ったのは、父王のやり方に対する、ささやかな抵抗だったのかもしれない。
ベルゼラ国を引き継ぐであろう、自分の道は決してきれいな道ではない。
ジプサムは外れの小さな檻に着く。
来るまでに心は決まっていた。
このまま逃がしてやるつもりだった。
そして、これが今生の別れとなる。
彼らが捕虜となって、払い受けられ、奴隷になって、まだ若いその身をぼろぼろにするのは、ジプサムの望むところではない。
特にユーディアは先ほど兵たちの話題になるぐらい、きれいな男である。
想像もしたくないが、きれいな若い男は、それなりに確かな需要はあるのだ。
そして、ジプサムは檻の前で、腹を出して大きなイビキをかきながら気持ちよく眠る捕虜の番人を見つける。
その扉は大きく開け放たれていた。
その中は、もぬけの殻だった。
「、、、逃げられましたね?」
サニジンは主の代わりにいう。
「そのようだな。このゼプシーたちの現れるタイミングも良かった。
彼らが手引きをしたのだろうな」
「探しますか?」
「いや、やめておこう。これで良かったんだ」
ジプサムは、開け放たれた檻の扉を閉める。
前後不覚に眠っている男を扉を背に、もたれかけさせる。彼は気がつかない。
念を入れて、ジプサムは男の手に酒の器を持たせた。
これで、近くに寄るまでわからないはずであった。
思いがけず沸き上がる、最後にユーディアに罵られたとても、彼としっかりその目を間近にみて、別れの抱擁を交わしたかったという想いを、ジプサムは飲み込んだのだった。
サニジンはそれを少し驚きをもってみていた。
彼がジプサムに付いてから4年間、王子は草原にはいっていない。
草原の民の間には、確かな繋がりがある。
先日、夜中に抜け出すと言ったときも、具体的にどうするつもりかは、サニジンは知らなかった。
そして、昼間の捕虜を逃がすこと、そして、逃げたモルガンを助ける様子。
自分の王子は興味を掻き立てられる男だった。
「水を!頭を洗う!」
ユーディアは見回して、飲料水用の大きな樽を見つけると、桶で水をすくい一気に頭から被る。
頭だけではなく、服も、下着も、さらに靴の中までひたひたになる。
「ああ、そんな頭の洗い方、駄目です!」
この期に及んで、サラサは年頃の女子である。
幌馬車に飛び込むと石鹸を借りてきた。
「もう、ユーディアさまは言い出したらやめませんし、その、ジプサムとのお話ができるように、成功率をあげてあげます!
その汗臭いというか、動物臭を落とさなくては!全身!
あの檻は人間用ではないですよ?
獣用、、、そう、きっとトラ用です!」
そして、なすすべなく立つ三人の男をギロリと見る。
「あんたたちはさらに臭い!先に帰るか、残るなら、体でもしっかり洗って着替えてください。ゼプシーの服を借りるといいでしょう。
加えていうなら、あんたたちも頭をカットすれば逃走成功率が上がりますよ?」
カカが何かをいいかけると、
「髪がモルガンの男の誇りなんて、笑わせます!
体を洗うにしろ、髪を切るにしろ、ベルゼラ兵は宴と女に夢中です!
気がつかれませんから!」
そういえば、捕られながらもジプサムに唾を吐きかけたのは女だった。
女はいざとなったら強いな、と彼らは思う。
ユーディアは促されるまますべての服を脱いだ。
8つの頃は、彼らが持っているものを持っていなかったが、いまは彼らにはないものをその胸に備えている。
紛れもなく女性の体である。
慌てて三人は、目をそらしたのだった。
ジプサムは宴を縫うように歩く。
そのすぐ後ろにはジプサムの影のようにサニジン。
彼は15の時からもう4年一緒である。
父王が付けた側近である。
年もジプサムより二つ上で、護衛としての腕前も確か。
彼と父の間の繋がりはあるだろうが、それが気にならないほど、サニジンは自分の側近の役目に徹している。
「王子は甘いな!蛮族を解放するなんて馬鹿者だ」
そんな兵たちの会話があちこちで聞こえる。
「だが、モルガンが汚ないって誰がいっていた?あの残った捕虜の男をみたか?きれいな顔立ちをしていた!見に行こうぜ!」
「いや、こっちの方が楽しいから、明日にしとけ!いくらでも見れるから。
そんなに気になるんだったら、捕虜の払い受けでもするか?」
捕虜の払い受けとは、戦争などで捕らえられた捕虜を、男なら過酷な炭鉱労働に購入したり、女なら家事労働やその他、愛人にしたりなど、自由にできる制度である。
払い受けられた者は、奴隷となる。
奴隷から自由を得るには、購入された額と同額か、それ以上の金額を、自分の主人に払わないといけない。
その金額を出すのは自分でも良いが、捕虜の祖国の家族などが、取り戻すために支払われることが多い。
ベルゼラ国は、戦争捕虜を金に変えるのである。
なので、せっかくとらえた捕虜たちを髪を切ったぐらいで解放したジプサム王子は、ベルゼラ王軍では、ものを知らないお坊ちゃんなのである。
戦争には表と裏がある。
「黙らせましょうか?」
サニジンが静かに言う。
「いや、いい。本音が聞ける場はそうないからな」
ジプサムは戦争捕虜の売買など反対である。
そもそも戦争自体、欲に目の眩んだ馬鹿げた愚か者のすることだと思っている。
だが、今回も父王の意図した通り、自分は動くことになった。
ユーディアの命乞いに乗ったのは、父王のやり方に対する、ささやかな抵抗だったのかもしれない。
ベルゼラ国を引き継ぐであろう、自分の道は決してきれいな道ではない。
ジプサムは外れの小さな檻に着く。
来るまでに心は決まっていた。
このまま逃がしてやるつもりだった。
そして、これが今生の別れとなる。
彼らが捕虜となって、払い受けられ、奴隷になって、まだ若いその身をぼろぼろにするのは、ジプサムの望むところではない。
特にユーディアは先ほど兵たちの話題になるぐらい、きれいな男である。
想像もしたくないが、きれいな若い男は、それなりに確かな需要はあるのだ。
そして、ジプサムは檻の前で、腹を出して大きなイビキをかきながら気持ちよく眠る捕虜の番人を見つける。
その扉は大きく開け放たれていた。
その中は、もぬけの殻だった。
「、、、逃げられましたね?」
サニジンは主の代わりにいう。
「そのようだな。このゼプシーたちの現れるタイミングも良かった。
彼らが手引きをしたのだろうな」
「探しますか?」
「いや、やめておこう。これで良かったんだ」
ジプサムは、開け放たれた檻の扉を閉める。
前後不覚に眠っている男を扉を背に、もたれかけさせる。彼は気がつかない。
念を入れて、ジプサムは男の手に酒の器を持たせた。
これで、近くに寄るまでわからないはずであった。
思いがけず沸き上がる、最後にユーディアに罵られたとても、彼としっかりその目を間近にみて、別れの抱擁を交わしたかったという想いを、ジプサムは飲み込んだのだった。
サニジンはそれを少し驚きをもってみていた。
彼がジプサムに付いてから4年間、王子は草原にはいっていない。
草原の民の間には、確かな繋がりがある。
先日、夜中に抜け出すと言ったときも、具体的にどうするつもりかは、サニジンは知らなかった。
そして、昼間の捕虜を逃がすこと、そして、逃げたモルガンを助ける様子。
自分の王子は興味を掻き立てられる男だった。