世継ぎで舞姫の君に恋をする
12、決断 (第二話 完)
天幕を出たとたん、ユーディアの喉元に刃が突きつけられる。
眼の鋭い男が座りながら剣を抜いていた。
サニジンだった。
ユーディアの背筋が凍りつく。
「早いな、しなかったのか?」
ユーディアはムッとする。
「心配なら中を確認したら?お酒を飲んだら速攻でぐっすりおやすみよ?
最近よく休んでなかったのではないの?」
じろりとサニジンは娘を上から下までねめつける。
少し、天幕を空け王子の様子を確認する。耳をすまして寝息も聞く。穏やかな寝息だった。
王子は意に沿わぬことをしなければならず、また彼を馬鹿にした王軍とのやり取りで疲れきっていた。
モルガン族をひとりも殺すな!との王子の指示を無視したのも王軍の兵だった。
怒ったモルガンの勇猛果敢な男たちとの戦闘は、武器の違いで勝利をしたが、至近距離からの戦いでは、ベルゼラ兵はもっと多くの者がやられていただろう。
挙げ句の果ての、村に放った火矢。
彼の怒りと絶望は、身近にいたサニジンはわかっている。
だが、ジプサム王子は王軍の暴挙を引き受けようとしていた。
果たして、それを良いとするかどうかであるが。
「お前、気色悪いな!ジプサムのことを全部把握しているのか?」
つい、男言葉がでる。
「それが仕事だ」
「彼はわたしのようによく女を引き込んだりするの?」
サニジンは剣を治め、眉を上げた。
ジプサムが女を引き込むことはない。
「王子の私生活を話せるわけがないだろう?」
ゼプシーの娘はふふっと笑った。
「それもそうだ!」
天幕を離れるとすぐに、ブルースが待ち構えていた。
あまりに堂々としているので、脱獄したモルガン族だとは誰も思わないようだった。
彼は、ユーディアの様子を確認し、眼に見えてほっとする。
頭からフードを被り、同じものをユーディアに被せる。
ユーディアがあられもない格好だからだ。
早足で兵の天幕が張られた陣を抜ける。
まだ、宴は盛り上がっている。
「彼と話はできたか?」
「できた」
「これで満足か?」
「満足だ!」
「報復はどうする?」
「する!だが、それはジプサムにではない」
サラサの待つ幌馬車に着く。
ユーディアは衣装を脱ぎ捨て、頭から水を被る。
「ユーディアさま!また、そんなことを!」
サラサが慌てる。
ユーディアの全身がしゃきっとする。
カカやライードも去る準備ができている。
彼らは、楽団に紛れたシャビとトーレスを待たずに、闇に紛れてここを出る予定だった。
だが、ユーディアには新たな決意が湧いていた。
無力感に泣いたジプサムを残してはいけなかった。
「サラサ、頭をしてくれ。檻に戻る。わたしにはやることができた。彼を助けることにする!」
ブルースはそれを聞いて慌てる。
ユーディアはまるで悪ガキに戻ったかのように生き生きしていた!
「ユーディア、捕虜として残ってもジプサムにしてやれることはないぞ」
ブルースは言う。
ユーディアの馬鹿げた決意を覆そうと、ブルースは必死になる。
「ブルース、お願い。あんな状態のジプサムを一人にして置けない。
彼は、モルガン族を助けるために馬を走らせて知らせてくれた!それがジプサムだから」
サラサはタオルでユーディアの髪を拭く。
ぐずぐずと同意出来ずにいるユーディアの悪友たちの代わりに、サラサは力を込めて言う。
「わかりました。期限は一年です。
きっちり一年後、モルガンは、ユーディアさまをどこにいても救出に参ります。
それまで、捕虜でも奴隷でもユーディアさまのお好きになさいなさい!」
ディアはジプサムを見捨てられないのだ。
二人の間で何が話されたかはわからないが、ユーディアは決断したのだ。
「サラサ、助けに来てくれて、ジプサムと話せるチャンスを作ってくれて、ありがとう。シャビやトーレス、モルガンの他のみんなに、ジプサムを恨まないでと言って欲しい。彼も苦しんでいる!」
そして、翌朝。
ジプサムは捕虜が逃げたという報告のために起こされる。
昨晩のことはよく覚えていないが、悲惨な出来事があったのにも関わらず、幸せな夢を見ていたような気がした。
そして、宴の片付けができていない夜営地を抜ける。
後ろを歩きながら、サニジンが早く片付けろと強く指示をした。
外れの捕虜の檻に行くと、昨晩の酒を飲んで寝てしまった男が地面に頭を擦り付けていた。
「申し訳ございません!!朝起きたら2名の捕虜が忽然と消えて、逃げておりました!」
「2名だって?」
ジプサムは聞き直した。
昨晩見たときは4名の捕虜はもぬけの殻だったのだ。
だが、今は、柵の中には二人が座っていた。
ひとりは、まっすぐな目をした美しい若者、ユーディア。
もうひとりは、褐色の肌の、野生の虎のような迫力のある若者、ブルース。
「おはよう!ジプサム!」
囚われ人とは思われない爽やかさで、ユーディアは言う。
ブルースは憮然とした表情である。
「ジプサム、ベルゼラに来いと言っていただろ?ついていってやるよ」
檻の中で、ユーディアはにっこりと笑ったのだった。
第二話 完
眼の鋭い男が座りながら剣を抜いていた。
サニジンだった。
ユーディアの背筋が凍りつく。
「早いな、しなかったのか?」
ユーディアはムッとする。
「心配なら中を確認したら?お酒を飲んだら速攻でぐっすりおやすみよ?
最近よく休んでなかったのではないの?」
じろりとサニジンは娘を上から下までねめつける。
少し、天幕を空け王子の様子を確認する。耳をすまして寝息も聞く。穏やかな寝息だった。
王子は意に沿わぬことをしなければならず、また彼を馬鹿にした王軍とのやり取りで疲れきっていた。
モルガン族をひとりも殺すな!との王子の指示を無視したのも王軍の兵だった。
怒ったモルガンの勇猛果敢な男たちとの戦闘は、武器の違いで勝利をしたが、至近距離からの戦いでは、ベルゼラ兵はもっと多くの者がやられていただろう。
挙げ句の果ての、村に放った火矢。
彼の怒りと絶望は、身近にいたサニジンはわかっている。
だが、ジプサム王子は王軍の暴挙を引き受けようとしていた。
果たして、それを良いとするかどうかであるが。
「お前、気色悪いな!ジプサムのことを全部把握しているのか?」
つい、男言葉がでる。
「それが仕事だ」
「彼はわたしのようによく女を引き込んだりするの?」
サニジンは剣を治め、眉を上げた。
ジプサムが女を引き込むことはない。
「王子の私生活を話せるわけがないだろう?」
ゼプシーの娘はふふっと笑った。
「それもそうだ!」
天幕を離れるとすぐに、ブルースが待ち構えていた。
あまりに堂々としているので、脱獄したモルガン族だとは誰も思わないようだった。
彼は、ユーディアの様子を確認し、眼に見えてほっとする。
頭からフードを被り、同じものをユーディアに被せる。
ユーディアがあられもない格好だからだ。
早足で兵の天幕が張られた陣を抜ける。
まだ、宴は盛り上がっている。
「彼と話はできたか?」
「できた」
「これで満足か?」
「満足だ!」
「報復はどうする?」
「する!だが、それはジプサムにではない」
サラサの待つ幌馬車に着く。
ユーディアは衣装を脱ぎ捨て、頭から水を被る。
「ユーディアさま!また、そんなことを!」
サラサが慌てる。
ユーディアの全身がしゃきっとする。
カカやライードも去る準備ができている。
彼らは、楽団に紛れたシャビとトーレスを待たずに、闇に紛れてここを出る予定だった。
だが、ユーディアには新たな決意が湧いていた。
無力感に泣いたジプサムを残してはいけなかった。
「サラサ、頭をしてくれ。檻に戻る。わたしにはやることができた。彼を助けることにする!」
ブルースはそれを聞いて慌てる。
ユーディアはまるで悪ガキに戻ったかのように生き生きしていた!
「ユーディア、捕虜として残ってもジプサムにしてやれることはないぞ」
ブルースは言う。
ユーディアの馬鹿げた決意を覆そうと、ブルースは必死になる。
「ブルース、お願い。あんな状態のジプサムを一人にして置けない。
彼は、モルガン族を助けるために馬を走らせて知らせてくれた!それがジプサムだから」
サラサはタオルでユーディアの髪を拭く。
ぐずぐずと同意出来ずにいるユーディアの悪友たちの代わりに、サラサは力を込めて言う。
「わかりました。期限は一年です。
きっちり一年後、モルガンは、ユーディアさまをどこにいても救出に参ります。
それまで、捕虜でも奴隷でもユーディアさまのお好きになさいなさい!」
ディアはジプサムを見捨てられないのだ。
二人の間で何が話されたかはわからないが、ユーディアは決断したのだ。
「サラサ、助けに来てくれて、ジプサムと話せるチャンスを作ってくれて、ありがとう。シャビやトーレス、モルガンの他のみんなに、ジプサムを恨まないでと言って欲しい。彼も苦しんでいる!」
そして、翌朝。
ジプサムは捕虜が逃げたという報告のために起こされる。
昨晩のことはよく覚えていないが、悲惨な出来事があったのにも関わらず、幸せな夢を見ていたような気がした。
そして、宴の片付けができていない夜営地を抜ける。
後ろを歩きながら、サニジンが早く片付けろと強く指示をした。
外れの捕虜の檻に行くと、昨晩の酒を飲んで寝てしまった男が地面に頭を擦り付けていた。
「申し訳ございません!!朝起きたら2名の捕虜が忽然と消えて、逃げておりました!」
「2名だって?」
ジプサムは聞き直した。
昨晩見たときは4名の捕虜はもぬけの殻だったのだ。
だが、今は、柵の中には二人が座っていた。
ひとりは、まっすぐな目をした美しい若者、ユーディア。
もうひとりは、褐色の肌の、野生の虎のような迫力のある若者、ブルース。
「おはよう!ジプサム!」
囚われ人とは思われない爽やかさで、ユーディアは言う。
ブルースは憮然とした表情である。
「ジプサム、ベルゼラに来いと言っていただろ?ついていってやるよ」
檻の中で、ユーディアはにっこりと笑ったのだった。
第二話 完