世継ぎで舞姫の君に恋をする
14、鷹
お昼時は、捕虜のユーディアとブルースは荷台から下ろされた。手首の拘束が外される。
逃亡防止用の足の鎖は付けたままである。
「からだがやばい、、、」
ユーディアは体を思いっきり伸ばした。
空を見上げると、数羽の鷹が旋回している。
馬での移動でない、荷馬車に揺られての移動は慣れず腰に来ていた。
ブルースも体をストレッチするが、油断なく、ベルゼラ兵に視線をやる。
二人に、兵と同じ昼食が配られる。
パンとリンゴ、干し肉などが入った包みを放り投げられる。
彼らはトニーの隊員と一緒であった。
食べるときも視線を感じる。
「ブルース、、」
若い男たちが近づく。四人だ。
にやけたようなぶっそうな表情に、ブルースはユーディアを後ろにかばう。
「モルガン族って強いんだってな?」
「ベルゼラの方が強いから、俺たちは捕虜なんだ」
慎重にブルースはいう。
「一対一で、どっちが強いか勝負しないか?モルガンの男の強さを見てみたい。
そんなほそっちろい体で、噂されるほど強いとも思えないんだ」
あごでユーディアを指す。
ブルースは立ち上がった。
「勝負なら俺が相手になる。
ただ生憎、足が開かないんでまともな勝負はできないが?」
ちゃりんと鍵が投げられた。
本気の勝負をトニーの隊の若い男がしたがっていた。
モルガンの男との勝負が始まる気配に、どんどんと男たちが集まってくる。
「ブルース、こんなのって、、」
やめて欲しいと袖を引くが、ブルースは引かなかった。
一対一なら勝てるだろうが、束になってかかってこられると、無事にいられるかわからない。
「心配するな」
ブルースは足枷を外した。
その騒ぎは隊長のトニーに、そして捕虜に関することはなんでも報告せよ、と命令していたジプサムにも伝わり、駆け付ける。
そして、彼らは見る。
大柄な一人目の繰り出すパンチはひとつもブルースに当たらなかった。
動体視力の差、敏捷性の違い。
足を払われて、一人目はあっさり負ける。
次は二人がかりだった。
ブルースを後ろから羽交締めにするが、正面から殴ろうとした男は、蹴りでぶっ飛ぶ。
さらに、羽交締めをしていた男は、背負い投げられて、くるりと地面に落とされた。
4人目は、素手の勝負でなくナイフを抜いた。ブルースは武器をもたない。
途中から見ていたジプサムは、危険すぎる勝負をやめさせようとした。
それを、すぐ横にいたトニー隊長は押し止める。
銀髪のトニー隊長の目が爛々と輝き、ブルースを見ていた。
「あいつ、強いな!」
トニー隊長は強い男が好きである。
圧倒的な強さを見せるモルガンの男との、ナイフ対素手を見たくなったのだ。
切っ先の軌道をブルースは見失わない。
まっすぐ繰り出されたナイフをするりと避けて、男の横へ。トンと手首を弾くように手刃で叩く。
ナイフはぽろりと落ちた。
「強いぞ!」
ブルースの強さに、見学していたもののうち5人ほどがナイフを抜く。
ベルゼラの屈強な男4人が一人のモルガンの男に負けるなんて認められなかった。
彼らはぐるりと、黒髪の三つ編男を取り囲んだ。
もう一人の彼の弟のようなきれいな男の方は、なすすべなく固まっているようだった。
ジプサムは見てられなかった。
やめよ、と叫び間に入ろうとする。
その時ブルースは天を見上げた。
今朝から彼らの上には三羽の鷹が旋回していた。
「ユーディア、一羽頼む!」
ユーディアはブルースの意図を察して、すぐに上着を脱ぎ、腕にぐるぐる巻く。
ブルースも上着を脱ぎ、2つに裂いた。
両腕に巻くためだ。
ブルースは指笛を吹いた。
高く、長く、音程を変えて3回。
すると、優雅に空を旋回していた鷹が、彼らに向かって落ちてくる。
さらに、もうひとつ音。
三羽の鷹はキラリと日を反すナイフに掴みかかる。
大きな羽音と風圧と、鋭いくちばし、鈎爪に、五人の男は悲鳴をあげて、ナイフを取り落とした。
鷹はガチッとナイフを咥える。
襲われた者たち以外のベルゼラの男たちも、いきなり現れた鷹の襲撃に、驚愕しているのを尻目に、鷹はいったん高く飛び去り方向転換する。
「また来るぞ!」
それは、誰が叫んだのか。
大空の王者は、矢よりも早く向かってきた。
クロスボウであらかじめ襲撃に備えて狙っていたのなら、もしかして10本に1本ぐらいなら当てられたかもしれなかった。
だが、彼らは鷹の襲撃など思いもしていなかった。
モルガンの二人の男以外は。
鷹は友人たちであった。
特に幼い頃から育てた彼らは。
ベルゼラの男たちが頭を抱えてかがみ込み、その鋭いくちばしと鋭い鈎爪を逃れようとしているなか、ブルースは拳を握り、両腕を広げた。
鷹はその腕を目指した。
ブルースのつき出された腕の肉に、その鋭い爪は食い込んだ!
普段はつけるべき爪の防具を今は、軽く巻き付けたあり合わせの上着のみ。
ブルースは歯を食いしばる。
爪が食い込んだらところから血がにじむ。
ユーディアは片腕を突きだし、服を厚く巻いたその腕に鷹を止まらせる。
それでも爪は食い込んでくる。
ベルゼラの男たちは呆然と平原の男を見る。
武器を持ってしても、このモルガンの男には勝てなかった。完敗だった。
「勝負あった!」
隊長のトニーがいう。
「その鷹はお前の鷹か?」
「いや、これはモルガン西の族長とわたしの兄たちの鷹だ」
「族長は死んだ。今はお前の鷹だ。
お前が欲しい!鷹ごと、我らの隊に入らないか?」
ブルースはいったん空に鷹を放つ。
その両腕の布がみるみる真っ赤になる。
「その腕を治療しよう。お前の行き先はわたしに決まるだろう」
トニーは言う。
「俺はユーディアと離れない」
トニーは、後ろで控えるユーディアを見る。
ユーディアは胸に広範囲に包帯を巻いている。
トニーの見る限り、強そうには見えなかった。
「ユーディアとは弟か?なら二人とも引き取ろう!」
トニー隊長は言う。
まてまて、勝手に決めるなよ!
ジプサムは思ったのだった。
逃亡防止用の足の鎖は付けたままである。
「からだがやばい、、、」
ユーディアは体を思いっきり伸ばした。
空を見上げると、数羽の鷹が旋回している。
馬での移動でない、荷馬車に揺られての移動は慣れず腰に来ていた。
ブルースも体をストレッチするが、油断なく、ベルゼラ兵に視線をやる。
二人に、兵と同じ昼食が配られる。
パンとリンゴ、干し肉などが入った包みを放り投げられる。
彼らはトニーの隊員と一緒であった。
食べるときも視線を感じる。
「ブルース、、」
若い男たちが近づく。四人だ。
にやけたようなぶっそうな表情に、ブルースはユーディアを後ろにかばう。
「モルガン族って強いんだってな?」
「ベルゼラの方が強いから、俺たちは捕虜なんだ」
慎重にブルースはいう。
「一対一で、どっちが強いか勝負しないか?モルガンの男の強さを見てみたい。
そんなほそっちろい体で、噂されるほど強いとも思えないんだ」
あごでユーディアを指す。
ブルースは立ち上がった。
「勝負なら俺が相手になる。
ただ生憎、足が開かないんでまともな勝負はできないが?」
ちゃりんと鍵が投げられた。
本気の勝負をトニーの隊の若い男がしたがっていた。
モルガンの男との勝負が始まる気配に、どんどんと男たちが集まってくる。
「ブルース、こんなのって、、」
やめて欲しいと袖を引くが、ブルースは引かなかった。
一対一なら勝てるだろうが、束になってかかってこられると、無事にいられるかわからない。
「心配するな」
ブルースは足枷を外した。
その騒ぎは隊長のトニーに、そして捕虜に関することはなんでも報告せよ、と命令していたジプサムにも伝わり、駆け付ける。
そして、彼らは見る。
大柄な一人目の繰り出すパンチはひとつもブルースに当たらなかった。
動体視力の差、敏捷性の違い。
足を払われて、一人目はあっさり負ける。
次は二人がかりだった。
ブルースを後ろから羽交締めにするが、正面から殴ろうとした男は、蹴りでぶっ飛ぶ。
さらに、羽交締めをしていた男は、背負い投げられて、くるりと地面に落とされた。
4人目は、素手の勝負でなくナイフを抜いた。ブルースは武器をもたない。
途中から見ていたジプサムは、危険すぎる勝負をやめさせようとした。
それを、すぐ横にいたトニー隊長は押し止める。
銀髪のトニー隊長の目が爛々と輝き、ブルースを見ていた。
「あいつ、強いな!」
トニー隊長は強い男が好きである。
圧倒的な強さを見せるモルガンの男との、ナイフ対素手を見たくなったのだ。
切っ先の軌道をブルースは見失わない。
まっすぐ繰り出されたナイフをするりと避けて、男の横へ。トンと手首を弾くように手刃で叩く。
ナイフはぽろりと落ちた。
「強いぞ!」
ブルースの強さに、見学していたもののうち5人ほどがナイフを抜く。
ベルゼラの屈強な男4人が一人のモルガンの男に負けるなんて認められなかった。
彼らはぐるりと、黒髪の三つ編男を取り囲んだ。
もう一人の彼の弟のようなきれいな男の方は、なすすべなく固まっているようだった。
ジプサムは見てられなかった。
やめよ、と叫び間に入ろうとする。
その時ブルースは天を見上げた。
今朝から彼らの上には三羽の鷹が旋回していた。
「ユーディア、一羽頼む!」
ユーディアはブルースの意図を察して、すぐに上着を脱ぎ、腕にぐるぐる巻く。
ブルースも上着を脱ぎ、2つに裂いた。
両腕に巻くためだ。
ブルースは指笛を吹いた。
高く、長く、音程を変えて3回。
すると、優雅に空を旋回していた鷹が、彼らに向かって落ちてくる。
さらに、もうひとつ音。
三羽の鷹はキラリと日を反すナイフに掴みかかる。
大きな羽音と風圧と、鋭いくちばし、鈎爪に、五人の男は悲鳴をあげて、ナイフを取り落とした。
鷹はガチッとナイフを咥える。
襲われた者たち以外のベルゼラの男たちも、いきなり現れた鷹の襲撃に、驚愕しているのを尻目に、鷹はいったん高く飛び去り方向転換する。
「また来るぞ!」
それは、誰が叫んだのか。
大空の王者は、矢よりも早く向かってきた。
クロスボウであらかじめ襲撃に備えて狙っていたのなら、もしかして10本に1本ぐらいなら当てられたかもしれなかった。
だが、彼らは鷹の襲撃など思いもしていなかった。
モルガンの二人の男以外は。
鷹は友人たちであった。
特に幼い頃から育てた彼らは。
ベルゼラの男たちが頭を抱えてかがみ込み、その鋭いくちばしと鋭い鈎爪を逃れようとしているなか、ブルースは拳を握り、両腕を広げた。
鷹はその腕を目指した。
ブルースのつき出された腕の肉に、その鋭い爪は食い込んだ!
普段はつけるべき爪の防具を今は、軽く巻き付けたあり合わせの上着のみ。
ブルースは歯を食いしばる。
爪が食い込んだらところから血がにじむ。
ユーディアは片腕を突きだし、服を厚く巻いたその腕に鷹を止まらせる。
それでも爪は食い込んでくる。
ベルゼラの男たちは呆然と平原の男を見る。
武器を持ってしても、このモルガンの男には勝てなかった。完敗だった。
「勝負あった!」
隊長のトニーがいう。
「その鷹はお前の鷹か?」
「いや、これはモルガン西の族長とわたしの兄たちの鷹だ」
「族長は死んだ。今はお前の鷹だ。
お前が欲しい!鷹ごと、我らの隊に入らないか?」
ブルースはいったん空に鷹を放つ。
その両腕の布がみるみる真っ赤になる。
「その腕を治療しよう。お前の行き先はわたしに決まるだろう」
トニーは言う。
「俺はユーディアと離れない」
トニーは、後ろで控えるユーディアを見る。
ユーディアは胸に広範囲に包帯を巻いている。
トニーの見る限り、強そうには見えなかった。
「ユーディアとは弟か?なら二人とも引き取ろう!」
トニー隊長は言う。
まてまて、勝手に決めるなよ!
ジプサムは思ったのだった。