世継ぎで舞姫の君に恋をする
16、暴漢
公開の場から一旦捕虜は舞台袖に降ろされた。
ユーディアはブルースに、頭の上から腕をまわされた。その胸の中に閉じ込められて、強く抱き締められる。
そうでなければ、手首を拘束された状態で、抱き締められないからだった
「ユーディア、お前を一年だけ手放してやる。わたしはベルゼラで強くなり、ジプサムから解放してやる!」
頬を強く擦り付けられた。
「ブルース、、」
ユーディアはブルースの涙を感じる。
不意に、ユーディアはブルースと離れなければならないことを実感する。
無力さに泣いたジプサムを助けるという決意が揺らぐ。
父のゼオンが選択したように、自分たちは遠く力でものをいわせるベルゼラを避け、自分たちだけで平和に生きればいいのではないか、とも思うのだ。
だが、そうして逃げても、強国のベルゼラは大きくなり、モルガン族の世界は小さくなる。
ジプサムはベルゼラ国王子であり、たとえ今は無力に涙するのだとしても、モルガンの生き残る道は、彼にあると思うのだ。
具体的にどうするという手段がみえている訳ではないが、彼の奴隷でいても、何かしらのものが得られるように思うのだ。
そして、ブルースは軍に入り、思いもよらなかったが、カカとナイードはベルゼラ国で働く。
敵の懐に入れば、ベルゼラ国に対する理解が深まり、モルガンの生き残る道がみえるかもしれないと思う。
「婚約は解消しない。結婚はその時まで待ってやる」
ブルースは言う。
「もういいか?」
そういったのは銀髪のトニー隊長だった。彼はガッツリ抱きあう二人を感慨深く眺めている。
「モルガン族の族長の息子、ブルース。ジプサム王子は二人を一緒に手にいれたかったようだがすまんな」
ブルースはユーディアを腕の輪から解放した。
捕虜官はブルース拘束の鍵をトニー隊長に渡す。トニーはすぐに戒めをほどいたようだった。
ユーディアは、ブルースが離れていくのを最後まで追うことはできない。
真っ赤なマントに礼装の、ベルゼラの王子が仁王立でユーディアを待っていたからだ。
彼が自分を購入した男だった。
ユーディアにはお金の単位が大きすぎて、理解できなかったが、その金額は会場中が涌いた様子から、とんでもない金額だとわかった。
「ジプサム、、」
ジプサムは付いてこいと顎で示す。
裏口を歩いていく。
「ジプサムどこに、、」
ジプサムは草原の友人で、今は自分の奴隷になった若者の言葉を無視をする。
トニー隊長がブルースの手首の拘束を外したように、ユーディアは外してもらえるかと思ったが、ジプサムは外そうとしない。
彼の怒りがひしひしと伝わってくる。
裏口にはサニジンが待っていた。
じろりとユーディアを見るが何も云わない。
頭を隠すショールをユーディアに被せる。
ユーディアの頭は蛮族の男だと言ってまわるようなものだった。
「王子、どちらに参りますか?」
「わたしの宿へ」
宿屋は広場から近いところにあった。
広場もそうであったがすれ違う人の多さに、目眩がする。
草原に生きるユーディアには目が拾う情報が多すぎる。
ジプサムは先を歩く。
王子とベルゼラの双璧であるベッカムとトニーの滞在と辺境での蛮族との小競り合いの勝利に、辺境の町のアゲールは、普段の何倍も賑わっているようだった。
もっとも、二人の兵団は既に王都に戻るか、一部は解散し、平時の仕事に戻るものもいる。
人混みからキラキラと日を反射するものがある。
ユーディアの目は、多くの情報から危険な物を読み取っていた。
「ジプサム、町で何の狩りをする?」
「はあ?」
ジプサムは言うが、ユーディアが草原から一歩も出たことがないことを思い出した。
見るものすべてが物珍しいに違いなかった。
「矢が狙っている」
ユーディアは人混みを指す。
はっと緊張するジプサムとサニジンには、何を指しているのかわからない。
矢はジプサムを狙っていた。
放たれると同時に、ユーディアはジプサムを押し倒す。
間髪いれずに人混みを縫うようにして、矢を放った男に向かって走り出す!
ユーディアは、手首を拘束された状態ではあったが、その脚は速い。次の矢をつがえる前にユーディアは両手で握り拳を作り、そのこねかみに向かってぶんと振る。
ユーディアの被っていたショールはふわりと舞うなか、暴漢は吹っ飛んだ。
つき倒されたジプサムとサニジンが、一歩も動けず呆然と見守るなか、男の手から落とされたクロスボウを蹴り飛ばす。
さらに、ユーディアはぶっ飛び気絶をしている男を踏みつけた。
その姿は、蛮族の男の印の三つ編を誇らしげに、細い体ながらも抜群の肉体能力に優れている、危険な野生の山猫のようであった。
「ベルゼラ国は人に向かって狩をするんだな!」
ユーディアは言う。
ユーディアがいなければ確実にジプサムは矢を受けていたであろう。
踏みつけられている男はトニーの隊のものだった。
「モルガンに最初の矢を放ったとして処分された男ですね」
ユーディアは複雑なベルゼラ軍内の事情は知らないが、サニジンの言葉に踏みつける足にぐっと体重を乗せる。
町の騒ぎに警察兵が駆けつける。
ユーディアをみてぎょっとするが、王子の奴隷と聞き、踏みつけられたままだった男を確保した。
男は途中で目を覚まし、できそこない王子の糞野郎などと憎しみを吐き散らす。
今回の処分に対する不満からの反抗のようだった。
ユーディアからみてもジプサムの前途は多難そうである。
サニジンは不本意ながらも付け加える。
「あなたの奴隷は目が良い。使えそうですね?」
ジプサムは益々不機嫌になる。
ユーディアを競り落としたのは、解放するためだったからだ。
「僕は、ジプサムを助けてやるために残ったんだ。ジプサム、諦めて?」
捕虜売買史上、最高額を叩き出した奴隷のユーディアは、ジプサムの気持ちを知らないで言ったのであった。
ユーディアはブルースに、頭の上から腕をまわされた。その胸の中に閉じ込められて、強く抱き締められる。
そうでなければ、手首を拘束された状態で、抱き締められないからだった
「ユーディア、お前を一年だけ手放してやる。わたしはベルゼラで強くなり、ジプサムから解放してやる!」
頬を強く擦り付けられた。
「ブルース、、」
ユーディアはブルースの涙を感じる。
不意に、ユーディアはブルースと離れなければならないことを実感する。
無力さに泣いたジプサムを助けるという決意が揺らぐ。
父のゼオンが選択したように、自分たちは遠く力でものをいわせるベルゼラを避け、自分たちだけで平和に生きればいいのではないか、とも思うのだ。
だが、そうして逃げても、強国のベルゼラは大きくなり、モルガン族の世界は小さくなる。
ジプサムはベルゼラ国王子であり、たとえ今は無力に涙するのだとしても、モルガンの生き残る道は、彼にあると思うのだ。
具体的にどうするという手段がみえている訳ではないが、彼の奴隷でいても、何かしらのものが得られるように思うのだ。
そして、ブルースは軍に入り、思いもよらなかったが、カカとナイードはベルゼラ国で働く。
敵の懐に入れば、ベルゼラ国に対する理解が深まり、モルガンの生き残る道がみえるかもしれないと思う。
「婚約は解消しない。結婚はその時まで待ってやる」
ブルースは言う。
「もういいか?」
そういったのは銀髪のトニー隊長だった。彼はガッツリ抱きあう二人を感慨深く眺めている。
「モルガン族の族長の息子、ブルース。ジプサム王子は二人を一緒に手にいれたかったようだがすまんな」
ブルースはユーディアを腕の輪から解放した。
捕虜官はブルース拘束の鍵をトニー隊長に渡す。トニーはすぐに戒めをほどいたようだった。
ユーディアは、ブルースが離れていくのを最後まで追うことはできない。
真っ赤なマントに礼装の、ベルゼラの王子が仁王立でユーディアを待っていたからだ。
彼が自分を購入した男だった。
ユーディアにはお金の単位が大きすぎて、理解できなかったが、その金額は会場中が涌いた様子から、とんでもない金額だとわかった。
「ジプサム、、」
ジプサムは付いてこいと顎で示す。
裏口を歩いていく。
「ジプサムどこに、、」
ジプサムは草原の友人で、今は自分の奴隷になった若者の言葉を無視をする。
トニー隊長がブルースの手首の拘束を外したように、ユーディアは外してもらえるかと思ったが、ジプサムは外そうとしない。
彼の怒りがひしひしと伝わってくる。
裏口にはサニジンが待っていた。
じろりとユーディアを見るが何も云わない。
頭を隠すショールをユーディアに被せる。
ユーディアの頭は蛮族の男だと言ってまわるようなものだった。
「王子、どちらに参りますか?」
「わたしの宿へ」
宿屋は広場から近いところにあった。
広場もそうであったがすれ違う人の多さに、目眩がする。
草原に生きるユーディアには目が拾う情報が多すぎる。
ジプサムは先を歩く。
王子とベルゼラの双璧であるベッカムとトニーの滞在と辺境での蛮族との小競り合いの勝利に、辺境の町のアゲールは、普段の何倍も賑わっているようだった。
もっとも、二人の兵団は既に王都に戻るか、一部は解散し、平時の仕事に戻るものもいる。
人混みからキラキラと日を反射するものがある。
ユーディアの目は、多くの情報から危険な物を読み取っていた。
「ジプサム、町で何の狩りをする?」
「はあ?」
ジプサムは言うが、ユーディアが草原から一歩も出たことがないことを思い出した。
見るものすべてが物珍しいに違いなかった。
「矢が狙っている」
ユーディアは人混みを指す。
はっと緊張するジプサムとサニジンには、何を指しているのかわからない。
矢はジプサムを狙っていた。
放たれると同時に、ユーディアはジプサムを押し倒す。
間髪いれずに人混みを縫うようにして、矢を放った男に向かって走り出す!
ユーディアは、手首を拘束された状態ではあったが、その脚は速い。次の矢をつがえる前にユーディアは両手で握り拳を作り、そのこねかみに向かってぶんと振る。
ユーディアの被っていたショールはふわりと舞うなか、暴漢は吹っ飛んだ。
つき倒されたジプサムとサニジンが、一歩も動けず呆然と見守るなか、男の手から落とされたクロスボウを蹴り飛ばす。
さらに、ユーディアはぶっ飛び気絶をしている男を踏みつけた。
その姿は、蛮族の男の印の三つ編を誇らしげに、細い体ながらも抜群の肉体能力に優れている、危険な野生の山猫のようであった。
「ベルゼラ国は人に向かって狩をするんだな!」
ユーディアは言う。
ユーディアがいなければ確実にジプサムは矢を受けていたであろう。
踏みつけられている男はトニーの隊のものだった。
「モルガンに最初の矢を放ったとして処分された男ですね」
ユーディアは複雑なベルゼラ軍内の事情は知らないが、サニジンの言葉に踏みつける足にぐっと体重を乗せる。
町の騒ぎに警察兵が駆けつける。
ユーディアをみてぎょっとするが、王子の奴隷と聞き、踏みつけられたままだった男を確保した。
男は途中で目を覚まし、できそこない王子の糞野郎などと憎しみを吐き散らす。
今回の処分に対する不満からの反抗のようだった。
ユーディアからみてもジプサムの前途は多難そうである。
サニジンは不本意ながらも付け加える。
「あなたの奴隷は目が良い。使えそうですね?」
ジプサムは益々不機嫌になる。
ユーディアを競り落としたのは、解放するためだったからだ。
「僕は、ジプサムを助けてやるために残ったんだ。ジプサム、諦めて?」
捕虜売買史上、最高額を叩き出した奴隷のユーディアは、ジプサムの気持ちを知らないで言ったのであった。