世継ぎで舞姫の君に恋をする

23、豪と柔

赤いマントのレグラン王が引き連れるのは、選りすぐりの10名の王騎士である。
ようやく主の帰還を果たしたベルゼラ王宮は、落ち着きを取り戻し始めていた。

代理のジプサムの役目もひとまず終了である。
モルガン征伐の件に関しては、ジプサムの指示、軍部の動き、処分などの一連の報告を既に受けている。
レグラン王にとっては、モルガンは他国に対しての見せしめだった。
最近、ベルゼラと他国の小さなこぜり合いが起きている。
ベルゼラの絶対的優位を示すために、何処かが犠牲にならなくてはならないと考えていた。
結果は、東は焼かれ死亡は30名の男。
最終的に捕虜にしたのは2名のみ。
西と東も全滅、生き残ったものも狩られ、捕虜になることもあり得ると思っていたが、ジプサムは軍部を押えた。
草原の生き残る道を残し、かつ、戦好きなトニーとベッカムの譲歩を引き出したようである。


「よくやった」

レグラン王はジプサムに言う。
以前ならその言葉にほっとするのかもしれないが、今のジプサムには王に対する怒りと、再び天幕の夜に感じた自分に対する無力感を感じるのみ。

「王よ、これがよくやったですか?我々には別のやり方がありました」

レグラン王は思いがけない反応に眉を上げた。息子を睨み付ける。
王には長年の彼に従う軍部の双璧ベッカムとトニーと、王騎士たち。
そして、報告に立ち会う事務官たち。
彼らに緊張が走る。
レグラン王に面とむかって意見をするものはいない。

「なら、お前ならどういう方法をとる?」

胃がわし掴まれたような、底冷えする王の問い掛け。
ジプサムは意を決していう。

「わたしなら、この件で言えばベルゼラとモルガン間の犯罪者の処罰の件で、罰に対する認識の違いと、他国人が自国民に罪を犯した、その犯罪者に対する引き渡しをするかどうか等の、処罰の共通認識ができていなかったことが問題です」

「では、その共通認識を持つためにはどうしたらよいと思う?」
王はさらに問いかける。

「それは、我らが他国に行って学んだり、逆に呼び寄せて学ばせたり。
相互に他国を理解し学び合う姿勢が必要だと思う」

ジプサムは事務官たちを交えて以前からそれを考えている。助けを求めるように、事務官のサムに目をやる。
サムも王立学校をでたばかりの若手である。
よくユーディアの勉強を手伝ったりしている。

「恐れながら申し上げます。王立学校に、そういう法律を比較するような学問を作るのはいかがでしょう?
国際法学といったものです。そのためには、王子のおっしゃられるように、こちらから専門家が行ったり、呼び寄せたりすることが必須です。それは恐らく、刑罰法だけにとどまらず、さまざまな交流そして理解につながっていくでしょう。
ベルゼラは、他国に先んじてそれを行うことで、他国を理解しながら、譲れない部分の自国のルールを通すことも可能になるのではと思うのです」

「ベルゼラが国際共通ルールの作成をするということか?」

王は、具体的で思いがけない意見に声をあげた。
ジプサムは頷いた。
「その通りです。ベルゼラは強国ではありますが、その強みを最大限に活かして、ソフト面でその存在感を示します。
他国は知らないうちに、ベルゼラの考えを標準に、生活をしていくかもしれません」

その場に居合わせたものたちはシンとし、そのイメージを浮かべた。
ベルゼラが率先して、国際ルールを作り、草原の国々を統一させていき、より豊かにより平和に発展していくイメージが浮かぶ。

それは、次の時代に進むべき道ではないか?

居合わせた者たちは、ろくに自分の意見も言えず、偉大な父王の影に隠れていたジプサム王子が、ようやくその固い殻を破り始め、その姿を現しはじめたのを知る。


「豪のレグラン王に、やわらのジプサム王子ですな!」

強面の髭面のベッカム隊長が、その沈黙を破った。
「坊ちゃんもやるな~!!」

そう言って豪快に笑う、ベルゼラの双璧の一人は、空気読めない男であった。



「わたしは上手く言えたのだろうか?」
ジプサムは次の用事にその場を去る。

「もちろんです!ジプサムさま」
サニジンは興奮を隠しきれない。
ジプサムが去った後でも、ソフト面での存在感を示すことについて、さまざまな意見がでているようであった。

「そうか、良かった」
ジプサムは、ほっとして言った。
彼は19才。ようやくベルゼラの第一王子として、レグラン王にそして、彼の部下たちにその存在を確かに認められた瞬間であった。



平時の落ち着きを取り戻した王宮は、季節の変わり目の、節分行事の準備がはじまっていた。
季節は足早に、秋から冬へと向かっている。
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