世継ぎで舞姫の君に恋をする
37、勝負3
ルーリクは体術は棄権をしようと思った。
弓、槍を女のような細っちろい側仕えに完敗して、体術で負ければもう、勇猛果敢なベッカムの隊にはいられない。
｢やめるか？人を見た目で判断したり、思い込みから決めてかかったりしてなかったか？｣
ジプサムはいう。
彼はまるで、この結果がわかっているような口振りだと、ルーリクは思った。
｢強さが正義ならば、お前に正義はないかもな？ユーディアに謝り、これからの発言をする前に気を付けるならば、許してもらえるかもしれないが、、、｣
｢あいつが強いなんて思えなかった！｣
ジプサムはルーリクの肩に手をおく。
いつも威勢のよい彼が体が大きいだけの餓鬼のように思える。
｢ユーディアは、東のモルガンの世継ぎで、自分から捕虜になった。
捕虜になってから、捕まっていた女、子供を解放させ、さらにわたしと交渉して、怪我を負って捕まっていた西のモルガンの男たちを釈放させた。
逃げる機会はあったが、逃げるより、奴隷になってもベルゼラに残って、どうしてこんな結果になったのかベルゼラを知ることで、モルガンの生き残る道を探ろうとして、わたしの傍にいる。
ユーディアは、わたしが購入したが、奴隷ではなく、友人として自由を買ったのだ。ユーディアが特別扱いなのは、わたしの幼馴染の友人だからだ。
理解できるか？ルーリク？｣
ジプサムがユーディアについて、誰かに言うのは初めてである。
｢ブルースは、、｣
｢ブルースも一緒に買うつもりだったが、あいにくトニーが彼に惚れてしまい、値がつり上がり過ぎて、二人は無理だった。
ブルースもベルゼラについて、ユーディアと別から学べると思ったからそれもいいかなと思った｣
ジプサムはもう一度ルーリクに聞く。
｢ユーディアに頭を下げるか？｣
ルーリクは体術は負けるとは思えなかったが、万一負ければ自分は立ち直れないように思う。
ルーリクの価値観の土台が音をたてて崩れていた。
勝っても、自分はユーディアに頭を下げて謝るだろうとも思う。
どにらにせよ謝るならば、モルガンの世継ぎと体術をしてみたいではないか？
弓勝負、槍勝負で、その身体能力がずば抜けて優れているのがわかった。
油断はない。
振り返ると、みんな、ユーディアがどこまで体術ができるのか、知りたくてウズウズしているのがわかる。
｢最後まで勝負をさせてください｣
ルーリクはまっすぐジプサムを見返していう。
ああ、付き物が落ちた顔をしている、とジプサムは思った。
自分が勝利することを疑わなかった弱者に負けたことにより、彼の中で何かが確実に変容したようだった。
場所を離宮内に移す。
再び冷たくしぐれてきたからだった。
体術の勝負は、参ったと言わせるか、相手の背中を床に付けたら勝ちである。
サニジンは簡単にルールを説明する。
熊のようなルーリクと野生の山猫のようなユーディアが向かい合う。
始め！の合図で、ルーリクは飛び出した。
その手はユーディアの襟を狙う。
ユーディアは同じだけ後ろに退きながら狙われた側の肩をさらに後ろに引く。
ルーリクは勢いが余りまりさらに前に出るが踏ん張って、横に回ったユーディアに瞬時に正面から向き合い、もう片方の手で襟を狙う。
それを左右を替えて何回か行うと、ジグザグに。
同じ側の襟を狙うと、円を描いて、二人はまわる。
まるで二人で鬼ごっこのようである。
｢逃げてばかりで卑怯な！｣
｢足をねらえ！動きを封じろ！｣
など、騎士候補たちは好き勝手に応援している。
｢え、、だって組み合うと怖い！｣
ユーディアは必死である。
｢パンチ、蹴り、なんでもいいぞ！｣
とジプサムはいう。
ユーディアが避けて、勢い余るルーリクの頬に軽くパンチを入れる。
｢おお～！！｣
ルーリクの動きが止まる。
今度はゆっくりとユーディアを正面から向き合った。打たれた頬は拳の跡に紅くなっている。
やばいっ！ユーディアは、男の目に宿る闘志に恐怖する。
ユーディアは攻撃に転じる。
脚をしならせて蹴りを頭やももを狙ってける。
すべて腕や固くした筋肉に防がれるが、受けたルーリクには鞭で打たれたような痛みである。
ユーディアの脚が止まるのを急所を守りながらルーリクは待つ。
最近はユーディアは運動不足気味だった。
息が切れる。この辺りは、毎日走り、鍛える戦士のルーリクに軍配があがる。
｢終わりか？｣
頭をかばう両腕の隙間から、獲物を狙うような野獣の目が、ユーディアを見る。
ユーディアの動きが止まったのを逃さない。
ルーリクは小手先なしに、真正面からユーディアに飛びかかる。
ユーディアは身をよじって逃れようとするが、とらえられた！
ドンッとユーディアに覆い被さる。
｢はあっ！｣
ユーディアは顔面強打を辛うじて防いだ。だが、背中はルーリクの顔と肩に押し付けられ、腰をからだで押さえられる。
｢ひっくり返されたら勝負ありだ！ひっくり返されるな！｣
ジプサムが叫ぶ。
必死に体を平らにユーディアは床にへばりつく。
脚の間に膝がこじ入りももを浮かせようとする。締めた脇から肩に腕がねじ込まれる。
こらえたのはホンの数秒。くるりとユーディアはひっくり返された。
そのまま荒い呼吸に弾む強い胴体で隙間なくのし掛かられて背中全面を床につけられる。
｢はううっ、、｣
ユーディアの顔が苦痛に歪む。
体は全く重い体に押さえ込まれていた。
ルーリクの荒い息が耳にかかる。
｢苦し、、、｣
強く押し付けられすぎて肺に息が入らなかった。
｢ルーリクの勝ち！｣
サニジンが宣言する。
わあっとルーリクへの祝福の歓声があがる。
ようやくルーリクはユーディアから体を離した。手をつかんで引き上げる。
｢大丈夫か？｣
ルーリクは勝者なのに全然嬉しそうではなかった。やけに神妙な顔をしている。
｢大丈夫！あんたの勝ちだ！｣
ユーディアは酸欠気味ではあるが、ルーリクを祝福する。
ルーリクは戸惑い気味の顔をしてはいるが、ユーディアを起こすために掴んだ手に、さらに手を重ねる。
そのまま、気持ちを落ち着けるように、深呼吸をする。
ベッカム隊で昔からルーリクをよく知るクロースは、そのような、発言をする前に、気持ちを落ち着かせようとする姿など見たことがなかった。
ルーリクはユーディアときちんと向かいあう。
｢今までの発言の数々、わたしが悪かった！わたしの考え方が偏狭だった！
これからは、ベルゼラ国人もそうでないものも、男も女も奴隷も、尊厳をもって扱うことを、ここにあなたに誓う！
それは天地が裂けるまで、破られることはない！｣
ルーリクはユーディアの手の甲にその熱い唇を押し付けた！
それは貴婦人へのキス。
宣言にも、キスにもユーディアは驚いた。
そのようなことをされたことはない。
｢な、何？｣
｢わたしの気持ちだ！何も言わずに受け取ってくれ｣
ルーリクは名残り惜しげに手を離した。
勝負はユーディアの2対1で勝ちであった。
もうじき昼である。一旦休憩になる。
ルーリクに騎士候補たちは群がった。
ベッカムの隊だけでなく、トニー隊もだった。
勝敗云々よりも最後の誓いが衝撃的である。
｢ルーリク！あれは何なんだよ！｣
ルーリクの首をつかんでクロースは言う。
｢あいつに惚れたなんていうなよ？あいつは華奢だが男で、何よりジプサム王子のだ！｣
｢わかっている｣
ルーリクはやけに真剣な表情である。
最後に組み敷いたとき、ルーリクはユーディアが女であることを知った。
王子の側仕えのユーディアは、女であることを隠している。
なぜなら、ユーディアの喘ぎを聞いて、どんなきれいな男を組み敷いても、反応することのない己のそれが勃ちあがっている。
ユーディアの手足は一捻りで簡単に折れそうであった。
ルーリクとクロースは金持ち貴族の次男坊、三男坊である。
ふたりは羽目を外しやんちゃなことをしている悪友である。
彼の友人クロースは、恋の噂の絶えないルーリクが、新たな恋に落ちたのを知ったのだった。
弓、槍を女のような細っちろい側仕えに完敗して、体術で負ければもう、勇猛果敢なベッカムの隊にはいられない。
｢やめるか？人を見た目で判断したり、思い込みから決めてかかったりしてなかったか？｣
ジプサムはいう。
彼はまるで、この結果がわかっているような口振りだと、ルーリクは思った。
｢強さが正義ならば、お前に正義はないかもな？ユーディアに謝り、これからの発言をする前に気を付けるならば、許してもらえるかもしれないが、、、｣
｢あいつが強いなんて思えなかった！｣
ジプサムはルーリクの肩に手をおく。
いつも威勢のよい彼が体が大きいだけの餓鬼のように思える。
｢ユーディアは、東のモルガンの世継ぎで、自分から捕虜になった。
捕虜になってから、捕まっていた女、子供を解放させ、さらにわたしと交渉して、怪我を負って捕まっていた西のモルガンの男たちを釈放させた。
逃げる機会はあったが、逃げるより、奴隷になってもベルゼラに残って、どうしてこんな結果になったのかベルゼラを知ることで、モルガンの生き残る道を探ろうとして、わたしの傍にいる。
ユーディアは、わたしが購入したが、奴隷ではなく、友人として自由を買ったのだ。ユーディアが特別扱いなのは、わたしの幼馴染の友人だからだ。
理解できるか？ルーリク？｣
ジプサムがユーディアについて、誰かに言うのは初めてである。
｢ブルースは、、｣
｢ブルースも一緒に買うつもりだったが、あいにくトニーが彼に惚れてしまい、値がつり上がり過ぎて、二人は無理だった。
ブルースもベルゼラについて、ユーディアと別から学べると思ったからそれもいいかなと思った｣
ジプサムはもう一度ルーリクに聞く。
｢ユーディアに頭を下げるか？｣
ルーリクは体術は負けるとは思えなかったが、万一負ければ自分は立ち直れないように思う。
ルーリクの価値観の土台が音をたてて崩れていた。
勝っても、自分はユーディアに頭を下げて謝るだろうとも思う。
どにらにせよ謝るならば、モルガンの世継ぎと体術をしてみたいではないか？
弓勝負、槍勝負で、その身体能力がずば抜けて優れているのがわかった。
油断はない。
振り返ると、みんな、ユーディアがどこまで体術ができるのか、知りたくてウズウズしているのがわかる。
｢最後まで勝負をさせてください｣
ルーリクはまっすぐジプサムを見返していう。
ああ、付き物が落ちた顔をしている、とジプサムは思った。
自分が勝利することを疑わなかった弱者に負けたことにより、彼の中で何かが確実に変容したようだった。
場所を離宮内に移す。
再び冷たくしぐれてきたからだった。
体術の勝負は、参ったと言わせるか、相手の背中を床に付けたら勝ちである。
サニジンは簡単にルールを説明する。
熊のようなルーリクと野生の山猫のようなユーディアが向かい合う。
始め！の合図で、ルーリクは飛び出した。
その手はユーディアの襟を狙う。
ユーディアは同じだけ後ろに退きながら狙われた側の肩をさらに後ろに引く。
ルーリクは勢いが余りまりさらに前に出るが踏ん張って、横に回ったユーディアに瞬時に正面から向き合い、もう片方の手で襟を狙う。
それを左右を替えて何回か行うと、ジグザグに。
同じ側の襟を狙うと、円を描いて、二人はまわる。
まるで二人で鬼ごっこのようである。
｢逃げてばかりで卑怯な！｣
｢足をねらえ！動きを封じろ！｣
など、騎士候補たちは好き勝手に応援している。
｢え、、だって組み合うと怖い！｣
ユーディアは必死である。
｢パンチ、蹴り、なんでもいいぞ！｣
とジプサムはいう。
ユーディアが避けて、勢い余るルーリクの頬に軽くパンチを入れる。
｢おお～！！｣
ルーリクの動きが止まる。
今度はゆっくりとユーディアを正面から向き合った。打たれた頬は拳の跡に紅くなっている。
やばいっ！ユーディアは、男の目に宿る闘志に恐怖する。
ユーディアは攻撃に転じる。
脚をしならせて蹴りを頭やももを狙ってける。
すべて腕や固くした筋肉に防がれるが、受けたルーリクには鞭で打たれたような痛みである。
ユーディアの脚が止まるのを急所を守りながらルーリクは待つ。
最近はユーディアは運動不足気味だった。
息が切れる。この辺りは、毎日走り、鍛える戦士のルーリクに軍配があがる。
｢終わりか？｣
頭をかばう両腕の隙間から、獲物を狙うような野獣の目が、ユーディアを見る。
ユーディアの動きが止まったのを逃さない。
ルーリクは小手先なしに、真正面からユーディアに飛びかかる。
ユーディアは身をよじって逃れようとするが、とらえられた！
ドンッとユーディアに覆い被さる。
｢はあっ！｣
ユーディアは顔面強打を辛うじて防いだ。だが、背中はルーリクの顔と肩に押し付けられ、腰をからだで押さえられる。
｢ひっくり返されたら勝負ありだ！ひっくり返されるな！｣
ジプサムが叫ぶ。
必死に体を平らにユーディアは床にへばりつく。
脚の間に膝がこじ入りももを浮かせようとする。締めた脇から肩に腕がねじ込まれる。
こらえたのはホンの数秒。くるりとユーディアはひっくり返された。
そのまま荒い呼吸に弾む強い胴体で隙間なくのし掛かられて背中全面を床につけられる。
｢はううっ、、｣
ユーディアの顔が苦痛に歪む。
体は全く重い体に押さえ込まれていた。
ルーリクの荒い息が耳にかかる。
｢苦し、、、｣
強く押し付けられすぎて肺に息が入らなかった。
｢ルーリクの勝ち！｣
サニジンが宣言する。
わあっとルーリクへの祝福の歓声があがる。
ようやくルーリクはユーディアから体を離した。手をつかんで引き上げる。
｢大丈夫か？｣
ルーリクは勝者なのに全然嬉しそうではなかった。やけに神妙な顔をしている。
｢大丈夫！あんたの勝ちだ！｣
ユーディアは酸欠気味ではあるが、ルーリクを祝福する。
ルーリクは戸惑い気味の顔をしてはいるが、ユーディアを起こすために掴んだ手に、さらに手を重ねる。
そのまま、気持ちを落ち着けるように、深呼吸をする。
ベッカム隊で昔からルーリクをよく知るクロースは、そのような、発言をする前に、気持ちを落ち着かせようとする姿など見たことがなかった。
ルーリクはユーディアときちんと向かいあう。
｢今までの発言の数々、わたしが悪かった！わたしの考え方が偏狭だった！
これからは、ベルゼラ国人もそうでないものも、男も女も奴隷も、尊厳をもって扱うことを、ここにあなたに誓う！
それは天地が裂けるまで、破られることはない！｣
ルーリクはユーディアの手の甲にその熱い唇を押し付けた！
それは貴婦人へのキス。
宣言にも、キスにもユーディアは驚いた。
そのようなことをされたことはない。
｢な、何？｣
｢わたしの気持ちだ！何も言わずに受け取ってくれ｣
ルーリクは名残り惜しげに手を離した。
勝負はユーディアの2対1で勝ちであった。
もうじき昼である。一旦休憩になる。
ルーリクに騎士候補たちは群がった。
ベッカムの隊だけでなく、トニー隊もだった。
勝敗云々よりも最後の誓いが衝撃的である。
｢ルーリク！あれは何なんだよ！｣
ルーリクの首をつかんでクロースは言う。
｢あいつに惚れたなんていうなよ？あいつは華奢だが男で、何よりジプサム王子のだ！｣
｢わかっている｣
ルーリクはやけに真剣な表情である。
最後に組み敷いたとき、ルーリクはユーディアが女であることを知った。
王子の側仕えのユーディアは、女であることを隠している。
なぜなら、ユーディアの喘ぎを聞いて、どんなきれいな男を組み敷いても、反応することのない己のそれが勃ちあがっている。
ユーディアの手足は一捻りで簡単に折れそうであった。
ルーリクとクロースは金持ち貴族の次男坊、三男坊である。
ふたりは羽目を外しやんちゃなことをしている悪友である。
彼の友人クロースは、恋の噂の絶えないルーリクが、新たな恋に落ちたのを知ったのだった。
