世継ぎで舞姫の君に恋をする
38、勝負の後(第六話 完)
勝負の後、ユーディアはブルースに手を伸ばした。
ブルースはユーディアの体を支えた。
伸ばせばいつもブルースがそこにいてくれる。
「ブルース、体術はきつい。体がギシギシ言っている。もう一歩も動きたくない」
そのつもりもないのに弱音が漏れる。
ブルースがユーディアを甘やかしてきた歴史は長い。
「それはお前が鍛練を怠っているからだ。今日の試合でよくわかった」
ブルースは厳しく評価しつつも、ユーディアを抱きかかえる。
ユーディアもブルースの首に腕を回す。
昔は良くしていたように、その胸に顔を押し付ける。
ブルースからは懐かしいモルガンの匂いがする。
ヒューと冷やかしの口笛が吹かれるが、ブルースは動じない。
二人の間ではそれは自然なことであった。モルガン族同士の間には誰も入れない寄せ付けない感じを見るものに感じさせる。
そのまま、その広間を出ようとするが、ブルースは思いとどまり、ひと言ジプサムに声をかける。
「ジプサム、こいつを借りる。
全身マッサージをしておかないと、明日から数日間は全く使い物にならなくなる」
ブルースは不満げなジプサムを見据える。
「なんなら王子がするか?」
「いや、、」
ジプサムは普段はマッサージされる側であり、誰かにしたことはない。
「よろしく頼む。迷惑をかけてすまない」
渋い顔で言う。
ブルースは、ユーディアを自分の被保護者扱いをあえてしたジプサムにムッとするが、何も返さない。
そのままユーディアの部屋に連れていく。
ユーディアをベットに寝かせる。靴を脱がせ寝巻にしていると思われる柔らかな素材のゆったりした服に着替えさせる。
胸の晒しも、
「ほどくぞ」と、ひと言声を掛けてからほどく。
現れ出るのは、ほわっとした胸だった。
ブルースは見ないように上着を着させる。
全く無防備である。
仰向けから足裏からマッサージをしていく。
指圧で体のエネルギーラインを刺激し、軽いストレッチで400ある筋肉を伸ばす。
足の次は腕から手で、手は指先まで刺激する。
感覚器官の先までエネルギーが流れるように刺激する。
「うつ伏せに」
ブルースはユーディアをうつ伏せにする。
すっかり脱力していた。
ユーディアの体は以前マッサージしたときよりも女らしくふっくらしている。
だが、ふくらはぎや尻、背中や背面の筋肉は先程の過酷な戦いにより、指が入らないほど固くなっている。
丁寧に一時間半ぐらいしていただろうか。
ユーディアが寝てしまったので、そのままベットから降りようとすると、ブルースはその手を捕まれた。
「顔もして」
「お前、調子にのってるだろ。甘やかされた怠け者のくせに」
「明日からちゃんとする、、、」
小さなため息をつくが、ユーディアの枕を持ち上げてブルースは頭側の壁にゆったりと持たれて、体を入り込ませる。
頭をポイント押しし、もみこむように頭の凝りをほぐす。
頭を終えて顔をする頃にはすっかりユーディアは熟睡である。
ブルースはもうひとつため息をつく。
ここまでリラックスされると、もう熟年の倦怠期の夫婦という感じで、何にも起こりようがないと思っているようだった。
それが、10年来の許嫁よりも、ジプサムに惹かれることに繋がったのだろうか、とブルースは思う。
「でもここまで安心されるというのもな、、。
ユーディア、わかっているか?まだ俺たちはまだ約束は継続中だ。あなたから、まだ破棄の申し出を受けていない。
山賊退治の再会を見て、身を引こうと思ったが、あいつと先に進む勇気がないなら、春にはわたしと結婚するか。
あいつもトルクメの姫と結婚話があるようだし」
くいっと顎先をあげる。
せりあがった唇に、かすめるようにキスをした。
ブルースも幼馴染みの壁を越えるのには勇気がいた。
まして、ユーディアはあのジプサムに惚れている。恐らくジプサムも。
ブルースは、頬の矢の羽ができた傷にもキスを落した。
一呼吸おくと、熟睡しているユーディアの頭をあげて、今度は起こさないように自分の体を静かに抜く。
部屋をでると、扉の外にはジプサムがお昼のサンドイッチにかぶりついていた。
「ほら」
とブルースにひと包、投げて寄越す。
「ユーディアは?」
ジプサムは様子を聞く。
この勝負は蛮族の奴隷という弱者の立場であるユーディア自身が、ケリをつけなければならないことであった。
それは、奴隷とはいえ、明らかに強いブルースにはできないことである。
ブルースは、既に皆から一目も二目も置かれている。
ユーディアはさらにいうと、自分以外の弱者のためにも頑張ったといえる。
ジプサムはブルースに寄越した包以外にもうひとつ持っていた。ユーディア用だった。
「怪我はしてないか?」
「心配だったら中に入って自分で確認したらいいだろ?」
「そうだな。チームモルガンよく頑張った。彼らの認識が確実に変化したと思う」
ブルースはイラっとくる。
「ユーディアの身体能力はあんなものではない。
草原だったら、熊のような相手に後ろを取らせることなどなく、鮮やかに翻弄して倒していただろう。
女でも、ちゃんと訓練すれば体術勝負で勝てる見込みはある。
もともと線の細いあいつは、ジプサムが側仕えとして甘やかしたせいで、あの程度で筋肉は悲鳴をあげている!
すぐにマッサージはしたが、数日あちこち痛いだろう」
ジプサムはブルースの失言に気がつかない。女でも勝てる、とは例えと思ったようであった。
「わかった、ユーディアにもう少し持久力をつけるために走るを基本に、少しわたしのトレーニングメニューに参加してもらうか」
ジプサムはそういいながら、あまり乗り気ではない。
「ユーディアはわたしの護衛でもないし、筋肉ムキムキになる必要もないが。いや、いずれ、モルガン族の長になるなら必要なのか?」
と、ぶつぶつと言っている。
ブルースはジプサムがいつユーディアが女であると気がつくのだろうと思う。
ジプサムは子供の頃のユーディアを知っている。
そのユーディアは、男髪をしてガキの中でも餓鬼大将であった。
その昔からの印象に引きずられて、抑制がかかっているようである。
ユーディアは女であると、自分から教えてやるほどブルースは親切ではない。
もっとも、ユーディアと戦ったルーリクはすぐに気がついたようだったが。
そのルーリクは、勝負の後のモルガンのブルースと、主人のジプサムの動きを追っている。
抱っこで運んでのマッサージ。
王子はお昼のサンドイッチを持っていってやるようだった。
「ルーリク、あれらの中に参戦するのか?ヘタをすれば、切り刻まれて鷹のエサにされるか、一生日の目をみないで地方でくすぶるかも知れんぞ?」
クロースは言った。
美しい側仕えをめぐって、既にブルースと王子が水面下で火花を散らしているように思えた。
「ほんとうにその通りだな。
色恋というより、俺はユーディアがどんな道を歩むのか#陰日向__かげひなた__#になり見守ってみたいだけなんだが、、」
「はあ?陰日向ってお前、大丈夫か?」
いつもならどんな強引な手段を用いても蹴散らし奪う、といった振る舞いをする欲望に正直な、我が道をゆくルーリクである。
その彼が、柄にもなくしおらしくなっていた。
「ベルゼラはモルガンに圧勝したが、そのモルガンの奴隷は、ベルゼラの双璧のひとつのトニー隊長の懐に入り込み、ナニにもできないお坊っちゃん王子を、俺らに次期王を意識させるほどに変化させ、ベッカム隊の暴れん坊のお前の牙を抜いたんだな!
それって凄いことではないか?」
クロースはいった。
トニー隊のギースやハメスたちもその場にいたが、その通りだと思った。
夕食時にはもう、ユーディアの不快に感じるような、弱者や弱国に対する侮蔑的な発言はされなくなる。
誰かが意識なく発言した表現も、ルーリクが率先して訂正させている。
もう、ユーディアが表に立つことはない。
そして、雪は数日間、断続的に降り続く。
真っ白な世界に彼らは閉じ込められようとしていた。
第六話 完
ブルースはユーディアの体を支えた。
伸ばせばいつもブルースがそこにいてくれる。
「ブルース、体術はきつい。体がギシギシ言っている。もう一歩も動きたくない」
そのつもりもないのに弱音が漏れる。
ブルースがユーディアを甘やかしてきた歴史は長い。
「それはお前が鍛練を怠っているからだ。今日の試合でよくわかった」
ブルースは厳しく評価しつつも、ユーディアを抱きかかえる。
ユーディアもブルースの首に腕を回す。
昔は良くしていたように、その胸に顔を押し付ける。
ブルースからは懐かしいモルガンの匂いがする。
ヒューと冷やかしの口笛が吹かれるが、ブルースは動じない。
二人の間ではそれは自然なことであった。モルガン族同士の間には誰も入れない寄せ付けない感じを見るものに感じさせる。
そのまま、その広間を出ようとするが、ブルースは思いとどまり、ひと言ジプサムに声をかける。
「ジプサム、こいつを借りる。
全身マッサージをしておかないと、明日から数日間は全く使い物にならなくなる」
ブルースは不満げなジプサムを見据える。
「なんなら王子がするか?」
「いや、、」
ジプサムは普段はマッサージされる側であり、誰かにしたことはない。
「よろしく頼む。迷惑をかけてすまない」
渋い顔で言う。
ブルースは、ユーディアを自分の被保護者扱いをあえてしたジプサムにムッとするが、何も返さない。
そのままユーディアの部屋に連れていく。
ユーディアをベットに寝かせる。靴を脱がせ寝巻にしていると思われる柔らかな素材のゆったりした服に着替えさせる。
胸の晒しも、
「ほどくぞ」と、ひと言声を掛けてからほどく。
現れ出るのは、ほわっとした胸だった。
ブルースは見ないように上着を着させる。
全く無防備である。
仰向けから足裏からマッサージをしていく。
指圧で体のエネルギーラインを刺激し、軽いストレッチで400ある筋肉を伸ばす。
足の次は腕から手で、手は指先まで刺激する。
感覚器官の先までエネルギーが流れるように刺激する。
「うつ伏せに」
ブルースはユーディアをうつ伏せにする。
すっかり脱力していた。
ユーディアの体は以前マッサージしたときよりも女らしくふっくらしている。
だが、ふくらはぎや尻、背中や背面の筋肉は先程の過酷な戦いにより、指が入らないほど固くなっている。
丁寧に一時間半ぐらいしていただろうか。
ユーディアが寝てしまったので、そのままベットから降りようとすると、ブルースはその手を捕まれた。
「顔もして」
「お前、調子にのってるだろ。甘やかされた怠け者のくせに」
「明日からちゃんとする、、、」
小さなため息をつくが、ユーディアの枕を持ち上げてブルースは頭側の壁にゆったりと持たれて、体を入り込ませる。
頭をポイント押しし、もみこむように頭の凝りをほぐす。
頭を終えて顔をする頃にはすっかりユーディアは熟睡である。
ブルースはもうひとつため息をつく。
ここまでリラックスされると、もう熟年の倦怠期の夫婦という感じで、何にも起こりようがないと思っているようだった。
それが、10年来の許嫁よりも、ジプサムに惹かれることに繋がったのだろうか、とブルースは思う。
「でもここまで安心されるというのもな、、。
ユーディア、わかっているか?まだ俺たちはまだ約束は継続中だ。あなたから、まだ破棄の申し出を受けていない。
山賊退治の再会を見て、身を引こうと思ったが、あいつと先に進む勇気がないなら、春にはわたしと結婚するか。
あいつもトルクメの姫と結婚話があるようだし」
くいっと顎先をあげる。
せりあがった唇に、かすめるようにキスをした。
ブルースも幼馴染みの壁を越えるのには勇気がいた。
まして、ユーディアはあのジプサムに惚れている。恐らくジプサムも。
ブルースは、頬の矢の羽ができた傷にもキスを落した。
一呼吸おくと、熟睡しているユーディアの頭をあげて、今度は起こさないように自分の体を静かに抜く。
部屋をでると、扉の外にはジプサムがお昼のサンドイッチにかぶりついていた。
「ほら」
とブルースにひと包、投げて寄越す。
「ユーディアは?」
ジプサムは様子を聞く。
この勝負は蛮族の奴隷という弱者の立場であるユーディア自身が、ケリをつけなければならないことであった。
それは、奴隷とはいえ、明らかに強いブルースにはできないことである。
ブルースは、既に皆から一目も二目も置かれている。
ユーディアはさらにいうと、自分以外の弱者のためにも頑張ったといえる。
ジプサムはブルースに寄越した包以外にもうひとつ持っていた。ユーディア用だった。
「怪我はしてないか?」
「心配だったら中に入って自分で確認したらいいだろ?」
「そうだな。チームモルガンよく頑張った。彼らの認識が確実に変化したと思う」
ブルースはイラっとくる。
「ユーディアの身体能力はあんなものではない。
草原だったら、熊のような相手に後ろを取らせることなどなく、鮮やかに翻弄して倒していただろう。
女でも、ちゃんと訓練すれば体術勝負で勝てる見込みはある。
もともと線の細いあいつは、ジプサムが側仕えとして甘やかしたせいで、あの程度で筋肉は悲鳴をあげている!
すぐにマッサージはしたが、数日あちこち痛いだろう」
ジプサムはブルースの失言に気がつかない。女でも勝てる、とは例えと思ったようであった。
「わかった、ユーディアにもう少し持久力をつけるために走るを基本に、少しわたしのトレーニングメニューに参加してもらうか」
ジプサムはそういいながら、あまり乗り気ではない。
「ユーディアはわたしの護衛でもないし、筋肉ムキムキになる必要もないが。いや、いずれ、モルガン族の長になるなら必要なのか?」
と、ぶつぶつと言っている。
ブルースはジプサムがいつユーディアが女であると気がつくのだろうと思う。
ジプサムは子供の頃のユーディアを知っている。
そのユーディアは、男髪をしてガキの中でも餓鬼大将であった。
その昔からの印象に引きずられて、抑制がかかっているようである。
ユーディアは女であると、自分から教えてやるほどブルースは親切ではない。
もっとも、ユーディアと戦ったルーリクはすぐに気がついたようだったが。
そのルーリクは、勝負の後のモルガンのブルースと、主人のジプサムの動きを追っている。
抱っこで運んでのマッサージ。
王子はお昼のサンドイッチを持っていってやるようだった。
「ルーリク、あれらの中に参戦するのか?ヘタをすれば、切り刻まれて鷹のエサにされるか、一生日の目をみないで地方でくすぶるかも知れんぞ?」
クロースは言った。
美しい側仕えをめぐって、既にブルースと王子が水面下で火花を散らしているように思えた。
「ほんとうにその通りだな。
色恋というより、俺はユーディアがどんな道を歩むのか#陰日向__かげひなた__#になり見守ってみたいだけなんだが、、」
「はあ?陰日向ってお前、大丈夫か?」
いつもならどんな強引な手段を用いても蹴散らし奪う、といった振る舞いをする欲望に正直な、我が道をゆくルーリクである。
その彼が、柄にもなくしおらしくなっていた。
「ベルゼラはモルガンに圧勝したが、そのモルガンの奴隷は、ベルゼラの双璧のひとつのトニー隊長の懐に入り込み、ナニにもできないお坊っちゃん王子を、俺らに次期王を意識させるほどに変化させ、ベッカム隊の暴れん坊のお前の牙を抜いたんだな!
それって凄いことではないか?」
クロースはいった。
トニー隊のギースやハメスたちもその場にいたが、その通りだと思った。
夕食時にはもう、ユーディアの不快に感じるような、弱者や弱国に対する侮蔑的な発言はされなくなる。
誰かが意識なく発言した表現も、ルーリクが率先して訂正させている。
もう、ユーディアが表に立つことはない。
そして、雪は数日間、断続的に降り続く。
真っ白な世界に彼らは閉じ込められようとしていた。
第六話 完