世継ぎで舞姫の君に恋をする
第七話 雪山離宮 トルクメの姫
39、訪問者
サニジンは朝、厨房に立ち寄る。
ジャンは常にここにいる。
｢今夜、明日にでもこのまま閉じこめれられるかもしれないが、大丈夫か？｣
｢水も食料もゆうに2ヶ月は大丈夫です。肉も猟で確保済みです｣
天然の冷凍庫に肉を保存している。
冷凍しないものは薫製にしていた。
サニジンは常に資料を求めるので、在庫表を示す。
それを見て安心したようである。
サニジンはまずはゴメスのところに薪の備蓄を確認しての厨房である。
クロスボウの矢の数などの武器や建物の出入り口などの侵入経路なども確認している。
雪は降りやまなかった。冗談ではなく、ここで雪解けまで籠城もありえそうな、雪の降る静寂の世界であった。
その音はりんりんと可愛らしい音である。
いつから鳴っていたのだろう？と、思えるほど、控えめな音であった。
反応したのはゴメスである。
音に耳を澄ます。
食堂の暖炉に薪をくべていたゴメスは、言う。
｢王子、西からお客さまです｣
夕食の為にテーブルについていたものたち全員がゴメスをみた。
ジプサムはナイフを置いた。
｢どうして来客が西から来るとわかる？｣
ゴメスは天井を差した。
まだ、断続的にりんりんと鳴っている。
｢西に仕掛けたご来客確認用の紐に触れたものがいます。
鈴の音で、どの方面から来たのかがわかります。この間隔だと、あと500メートルほどかと｣
｢来客確認用？｣
サニジンが聞く。
ゴメスはにやりと笑う。
｢はい。これでわたしはここに忍び込もうとした盗賊たちを、何度も撃退しておりますので確かです｣
ゴメスは離宮に至る道や森の中にも侵入者がわかる仕掛けを張り巡らしている。
｢西の道は、この離宮への一本道だな。
物騒な客人かもしれないが、そうでない雪にまかれた旅人かもしれない。ひとまず出迎えにいく！｣
口をぬぐい王子は立つ。
サムジンやギース、ルーリクを選ぶ。
｢武器を持て！｣
三人は立つが、サニジンは王子を止める。
｢王子はここにいてください。誰が来たかわからない以上、王子を狙うものの可能性もあります｣
｢そうだな。ではサニジンまかせた。何かあれば笛を吹け｣
｢笛もいいですが、わたしかユーディアをお連れください｣
ブルースは言う。
｢ではブルース行け！｣
ジプサムは命じた。
ジプサムは、有事にはユーディアと片時も離れたくない。
サニジンたちは厚手のマントを羽織り、剣とクロスボウを持つ。
王子一行は西の入り口で待つ。
彼らも武器を持つ。警告の笛の音はならない。
ユーディアは待てなくなった。
｢ジプサム、上から見る！｣
3階へ駆け上りベランダにでる。
一面真っ白な世界であった。
目を凝らす。夕日を照り返す、ほの赤い世界に転々と足跡。
その先に、雪を頭から被る重い森。
ベランダの桟から身を乗りだして眼を凝らす。
｢サニジン、ギース、ルーリク、ブルースに、旅人風二人｣
｢見えるのか？二人はどんなやつらだ｣
ジプサムも走ってついてきていた。
｢王子さまは、入り口で迎え出なくてはいけないのでは？｣
｢いいから教えてくれ｣
むっつりと言う。
彼には小さな黒い影のようにしか見えない。
ユーディアはもう一度焦点を合わせる。
草原育ちのユーディアは二キロ先の男女が区別できるほど眼がよい。
｢若い女、、金色の髪の女と男。武器を持つが抜かない。
彼らは旅人？｣
｢若い女と男？この真冬に雪山越えか？｣
｢あ、ブルースがサインを送ってくれている。彼らはトルクメの姫と護衛。馬車はこの先で立ち往生。馬がダメになった。離宮に王子に会いに来た、と言っている、、、｣
ユーディアの心臓が重く強くうち始めた。
手が震える。
｢トルクメの姫だって？なんでここに来る！｣
ジプサムは驚いている。彼も寝耳に水である。
｢ジプサム、僕はブルースと会話できる。何か伝えることがあったら今してほしい｣
ユーディアがいうと、ジプサムは思案顔だ。
急なトルクメの姫の来訪に、微妙に眉を寄せるが、そのまま帰らせるわけにはいかなかった。
既に道は塞がれている。
｢ああ、ひとまず離宮に避難せよと。馬車は誰か二人で様子を見にいかせろ。
姫なら生活に必要な物などがあるだろうからな｣
ユーディアはサインを送る。
わかったの返事のサインがブルースから返る。
トルクメの姫と護衛は、その日の夕方、サニジンとルーリクに抱えられるようにして離宮に凍えた状態でやってきたのだった。
豪華な毛皮のマントを羽織っている。
｢急なご訪問をお許しください。わたくしはトクルメの姫、リリーシャ。護衛のショウ。助けてくださいまして本当にありがとうございます｣
真っ赤な手で、おじきをしようとするので、ジプサムは遮った。
｢ゆっくりお話を聞くのは後にして、早くあなた方はお風呂に入って体を温めよ｣
｢お心遣いありがとうございます｣
｢ユーディア！｣
ユーディアは、進み出てリリーシャのコートを預かる。
護衛は自分で脱いだ。
｢ジャン！何か温まるものを作ってくれ。ゴメス！彼らの部屋を指示してほしい｣
ユーディアは急な訪問者を温泉に連れていく。高貴な訪問者に、慌ただしい夜になったのだった。
彼らの馬車は脱輪して、動かし様がなく、馬ももうダメであった。
ブルースとギースは持てるだけもって、来た道を戻る。
そのうちに再び重い雪が降り始める。
彼らの足跡を消していく。
ブルースとギースが戻った時にはすっかり闇が落ち、雪がどんどんと降り積もる。
客人を迎え入れた夜、とうとう彼らは来客ごと離宮に閉じ込められたのだった。
ジャンは常にここにいる。
｢今夜、明日にでもこのまま閉じこめれられるかもしれないが、大丈夫か？｣
｢水も食料もゆうに2ヶ月は大丈夫です。肉も猟で確保済みです｣
天然の冷凍庫に肉を保存している。
冷凍しないものは薫製にしていた。
サニジンは常に資料を求めるので、在庫表を示す。
それを見て安心したようである。
サニジンはまずはゴメスのところに薪の備蓄を確認しての厨房である。
クロスボウの矢の数などの武器や建物の出入り口などの侵入経路なども確認している。
雪は降りやまなかった。冗談ではなく、ここで雪解けまで籠城もありえそうな、雪の降る静寂の世界であった。
その音はりんりんと可愛らしい音である。
いつから鳴っていたのだろう？と、思えるほど、控えめな音であった。
反応したのはゴメスである。
音に耳を澄ます。
食堂の暖炉に薪をくべていたゴメスは、言う。
｢王子、西からお客さまです｣
夕食の為にテーブルについていたものたち全員がゴメスをみた。
ジプサムはナイフを置いた。
｢どうして来客が西から来るとわかる？｣
ゴメスは天井を差した。
まだ、断続的にりんりんと鳴っている。
｢西に仕掛けたご来客確認用の紐に触れたものがいます。
鈴の音で、どの方面から来たのかがわかります。この間隔だと、あと500メートルほどかと｣
｢来客確認用？｣
サニジンが聞く。
ゴメスはにやりと笑う。
｢はい。これでわたしはここに忍び込もうとした盗賊たちを、何度も撃退しておりますので確かです｣
ゴメスは離宮に至る道や森の中にも侵入者がわかる仕掛けを張り巡らしている。
｢西の道は、この離宮への一本道だな。
物騒な客人かもしれないが、そうでない雪にまかれた旅人かもしれない。ひとまず出迎えにいく！｣
口をぬぐい王子は立つ。
サムジンやギース、ルーリクを選ぶ。
｢武器を持て！｣
三人は立つが、サニジンは王子を止める。
｢王子はここにいてください。誰が来たかわからない以上、王子を狙うものの可能性もあります｣
｢そうだな。ではサニジンまかせた。何かあれば笛を吹け｣
｢笛もいいですが、わたしかユーディアをお連れください｣
ブルースは言う。
｢ではブルース行け！｣
ジプサムは命じた。
ジプサムは、有事にはユーディアと片時も離れたくない。
サニジンたちは厚手のマントを羽織り、剣とクロスボウを持つ。
王子一行は西の入り口で待つ。
彼らも武器を持つ。警告の笛の音はならない。
ユーディアは待てなくなった。
｢ジプサム、上から見る！｣
3階へ駆け上りベランダにでる。
一面真っ白な世界であった。
目を凝らす。夕日を照り返す、ほの赤い世界に転々と足跡。
その先に、雪を頭から被る重い森。
ベランダの桟から身を乗りだして眼を凝らす。
｢サニジン、ギース、ルーリク、ブルースに、旅人風二人｣
｢見えるのか？二人はどんなやつらだ｣
ジプサムも走ってついてきていた。
｢王子さまは、入り口で迎え出なくてはいけないのでは？｣
｢いいから教えてくれ｣
むっつりと言う。
彼には小さな黒い影のようにしか見えない。
ユーディアはもう一度焦点を合わせる。
草原育ちのユーディアは二キロ先の男女が区別できるほど眼がよい。
｢若い女、、金色の髪の女と男。武器を持つが抜かない。
彼らは旅人？｣
｢若い女と男？この真冬に雪山越えか？｣
｢あ、ブルースがサインを送ってくれている。彼らはトルクメの姫と護衛。馬車はこの先で立ち往生。馬がダメになった。離宮に王子に会いに来た、と言っている、、、｣
ユーディアの心臓が重く強くうち始めた。
手が震える。
｢トルクメの姫だって？なんでここに来る！｣
ジプサムは驚いている。彼も寝耳に水である。
｢ジプサム、僕はブルースと会話できる。何か伝えることがあったら今してほしい｣
ユーディアがいうと、ジプサムは思案顔だ。
急なトルクメの姫の来訪に、微妙に眉を寄せるが、そのまま帰らせるわけにはいかなかった。
既に道は塞がれている。
｢ああ、ひとまず離宮に避難せよと。馬車は誰か二人で様子を見にいかせろ。
姫なら生活に必要な物などがあるだろうからな｣
ユーディアはサインを送る。
わかったの返事のサインがブルースから返る。
トルクメの姫と護衛は、その日の夕方、サニジンとルーリクに抱えられるようにして離宮に凍えた状態でやってきたのだった。
豪華な毛皮のマントを羽織っている。
｢急なご訪問をお許しください。わたくしはトクルメの姫、リリーシャ。護衛のショウ。助けてくださいまして本当にありがとうございます｣
真っ赤な手で、おじきをしようとするので、ジプサムは遮った。
｢ゆっくりお話を聞くのは後にして、早くあなた方はお風呂に入って体を温めよ｣
｢お心遣いありがとうございます｣
｢ユーディア！｣
ユーディアは、進み出てリリーシャのコートを預かる。
護衛は自分で脱いだ。
｢ジャン！何か温まるものを作ってくれ。ゴメス！彼らの部屋を指示してほしい｣
ユーディアは急な訪問者を温泉に連れていく。高貴な訪問者に、慌ただしい夜になったのだった。
彼らの馬車は脱輪して、動かし様がなく、馬ももうダメであった。
ブルースとギースは持てるだけもって、来た道を戻る。
そのうちに再び重い雪が降り始める。
彼らの足跡を消していく。
ブルースとギースが戻った時にはすっかり闇が落ち、雪がどんどんと降り積もる。
客人を迎え入れた夜、とうとう彼らは来客ごと離宮に閉じ込められたのだった。
