世継ぎで舞姫の君に恋をする
40、婚約者候補1
トルクメの姫リリーシャは金髪の美人であった。
ふっくらとした頬に赤い唇。
緑の目はぱっちりと大きく人形のよう。
温泉で温まった姫は生き返っていた。
姫の部屋を決める時にひと悶着ある。
ゴメスが用意した部屋を拒否したのだ。
「こんな小さな部屋で、屋敷の隅は嫌です!もう少し良い部屋をご用意いただけないかしら?」
ゴメスと部屋割りでもめているという話を聞き付けて、サニジンが間に入る。
ジプサムも何事かと様子を見守る。
「他の部屋がよいと言われるのですか?どんな部屋が良いのですか?ご不快に感じさせましたら申し訳ございません。
わたしたちは賓客に不馴れでございまして、おっしゃっていただけたら善処できるのですが」
それを聞いて、リリーシャは勝ち誇った顔をする。
「では王子の隣の部屋を用意なさい」
それを聞きゴメスは困ったように言う。
「それは無理です。レグラン王が鍵をお持ちです」
リリーシャはきっとゴメスを睨み付けた
「わたくしはそのレグラン王から離宮にご招待いただいたのですよ!」
そこで、王子たちはレグラン王が彼女を呼び寄せ、冬の間、付きっきりで相手をさせようとしていることを知る。
王子の騎士を選ばせるのとほぼ同じ作戦の様だった。
冬の間一緒に過ごしたら情も沸くだろう、との魂胆が読める。
「では、同じ階の別の部屋に、、」
「隣が無理ならその隣でもよくってよ?」
ユーディアは固まった。
リリーシャ姫が指した部屋はユーディアが使っている部屋だからだ。
「その部屋は塞がっています!」
ゴメスは厳しく言う。
このやり取りで、リリーシャに対して不快な感情を持ったようであった。
ジプサムは姫の気持ちが収まりそうにないのを見てとった。
「ごめん、ユーディア、別の部屋に移動してくれる?」
「今すぐ、、、、?」
遠巻きにしている騎士たちも固唾を飲んで成り行きを見守っている。
ユーディアはその夜、ジプサムに一番近い部屋から追い出された。
さらに、護衛のショウの部屋のために、サニジンも追い出されることになる。
「まあ!小さな部屋ね!獣くさいわ!まあしょうがないわね」
ルーリクが怒りをこらえて拳を握りしめている。
クロースは怒りを抜くように、タンタンとその肩を叩く。
ユーディアは半泣きをこらえる。
自分の立場はお姫さまの一言で、ころっと変わるのだ。
ジプサムは姫の機嫌をとるようである。
荷物を出すのにブルースやジャンが手伝ってくれる。
それほど荷物があるわけではない。
「ゴメス、王子から一番遠い部屋をお願い!」
ゴメスは困ったようにユーディアを見た。
「ジャンの隣の部屋なら空いてます」
それを聞き、ジプサムは言う。
「駄目だ。ユーディアはわたしの部屋から遠くではない部屋に。そして、リリーシャ姫のことをはじめの内は助けてほしい。
それでいいか?ユーディア?」
渋々ユーディアはうなずく。
遠くにいってくれるなという気持ちは、嬉しく思う。
それに、リリーシャ姫を助けられるような者はここにはいない。全員男だ。
ユーディアも表向き男ではあったが。
本能的に危険のない者をジプサムは選んだのだった。
「この者はわたしの側仕えのユーディア。あなたの身の回りのお手伝いをさせるが、なにもかもトルクメの王宮内と同様のサービスを期待しないでほしい。
わたしは謹慎の為にここにいる。
男所帯で、たいして相手もできないかもしれないことをあらかじめ御詫びしておく!
本当は、明日にでもお引き取りをいただきたいぐらいだが、あいにく外は雪で、身動きが当分とれないだろう。
ここでは自分のことは自分でするようになっている。
ここに滞在するつもりならば、状況が状況なためにあなたもご理解いただきたい。
その上で、動けるようになるまで、滞在を許そう。
それは初めにわかってほしいのだが、トルクメの姫よ、ご理解いただけるか?」
びしっとジプサムはいう。
それを聞き、リリーシャ姫は眉を寄せるがうなずいた。
実際に王子に会うと、リリーシャが聞いていたベルゼラ国第一王子の印象とずいぶん違う。
なんにも自分では決められないお坊っちゃん王子で影も薄いと聞いていたが。
どうも様子が違うようである。
王子の発言を聞く、騎士たちの様子を見れば、どれだけ尊重されているかがすぐにわかる。
皆、その通りという顔をしている。
リリーシャが不快に思った分、少しユーディアの気持ちもなだめられた。
ユーディアは姫、護衛、その隣の部屋に移動する。
サニジンもひとつずれる。
「やっかいな相手ですね」
サニジンも不快ではあるが、未来の王子の妃になるかもしれない姫である。
王子が王になれば王妃だ。
身分的にも申し分はない。
「レグラン王は実力行使にきたのですね。姫の方からこの極寒に山越えさせて乗り込ませるとは、さすがというか。
ひと波乱もふた波乱もありそうな気がする、、、」
サニジンのその予感はあたっていた。
王がジプサムの妻にと意図するリリーシャの登場で、うまくとれていた均衡が揺らぎ始めていた。
わがまま放題にそだった姫のようである。
朝食は運ばせる。下げさせる。しかも残す。フルーツを食べたいという。三時には紅茶とおやつを食べたいという。
ユーディアはげんなりしながら、食事を引きに行く幾度、なにやら食事に対しての要望というか不満を持ち帰り、ジャンに伝える。
そして、一番にぶちギレたのはジャンだった。
「ここにジューシーなフルーツがあると思うな!あるのはドライフルーツばっかりだ!」
それは朝食の時間だった。
ユーディアが運んで帰ってくると、ジャンがぶつくさいっている。
ジプサム王子はユーディアが帰ってくるのを食べずに待っていた。
ユーディアも角のいつもの席につく。
バンっと乱暴にジャンがユーディアの隣の席に座った。彼も一息ついて朝食をとる。
「ドライの食感が嫌なんではないか?ヨーグルトに混ぜるとかして、朝食にだしたりするのはどうだ?」
ジャンの不満を聞き、ルーリクがにやにやしながら寄ってくる。
基本、自分に関わらないことは面白いものである。
「ヨーグルトなんてあるかっ」
ジャンはブスッという。
「作ればいいんじゃあない?そういえば裏でゴメスが羊を数頭飼っているし」
とユーディアがいう。
「羊の乳はチーズだろ?」
とジャン。
「あれ?ジャンはもしかして、羊の乳をフレッシュで飲んだりヨーグルトにしたことないの?」
それらを聞いて、わらわらと騎士候補たちが集まってきた。
ゴメスもいる。最近はジャンの朝食を食べている。
「ヨーグルトならあるので、それを種にして作りますか。子を産み、ちょうど授乳している羊がおりますので」
ヨーグルトにわあっと歓声があがる。
少し違ったのものを食べたくなってきた頃だった。
その反応に、ジャンは鼻をぎゅっとする。
自分の不甲斐なさをつきつけられたような気がしたのだ。
「菓子は作れるのかよ?」
とクロース。彼も、おやつがあったらいいな、と思っていたのだった。
「作れるが、パン用の小麦だ。無駄にしたくない」
「少しぐらいならいいのではないか?姫に不機嫌になられると困るんだ。
しまいに、ここに直接、談判に来るぞ?」
在庫量を把握しているサニジンが口を挟む。
ジャンは、直接まくしたてられるのは嫌である。
「羊の乳が手にはいるのなら、ヨーグルトに加えて、バターも作ろうよ?菓子作りにバターは必要でしょう?」
とユーディア。
「バターだって?」
ジャンはいう。バターとは王宮では塊で購入するものだった。
高級品で、今回はもう残り少なくなっていたのが気にはなっていた。
なくても命には関わらないが、あった方が美味しくパンを頂ける。
「簡単だって!羊の革袋にいれて、がしゃがしゃとふり続けるんだ!」
とユーディアは振ってみるふりをする。
「なんだったら、姫を誘って一緒に作ったりしてやってくれないか?」
とジプサム王子はいう。
提案の形をとるが、連れていけという命令である。
露骨にジャンは嫌そうな顔をする。
「ユーディアが一緒ならまあ、いいけど」
ジプサムは、暇でわがまなトルクメの姫の扱いを持てあましぎみであった。
ふっくらとした頬に赤い唇。
緑の目はぱっちりと大きく人形のよう。
温泉で温まった姫は生き返っていた。
姫の部屋を決める時にひと悶着ある。
ゴメスが用意した部屋を拒否したのだ。
「こんな小さな部屋で、屋敷の隅は嫌です!もう少し良い部屋をご用意いただけないかしら?」
ゴメスと部屋割りでもめているという話を聞き付けて、サニジンが間に入る。
ジプサムも何事かと様子を見守る。
「他の部屋がよいと言われるのですか?どんな部屋が良いのですか?ご不快に感じさせましたら申し訳ございません。
わたしたちは賓客に不馴れでございまして、おっしゃっていただけたら善処できるのですが」
それを聞いて、リリーシャは勝ち誇った顔をする。
「では王子の隣の部屋を用意なさい」
それを聞きゴメスは困ったように言う。
「それは無理です。レグラン王が鍵をお持ちです」
リリーシャはきっとゴメスを睨み付けた
「わたくしはそのレグラン王から離宮にご招待いただいたのですよ!」
そこで、王子たちはレグラン王が彼女を呼び寄せ、冬の間、付きっきりで相手をさせようとしていることを知る。
王子の騎士を選ばせるのとほぼ同じ作戦の様だった。
冬の間一緒に過ごしたら情も沸くだろう、との魂胆が読める。
「では、同じ階の別の部屋に、、」
「隣が無理ならその隣でもよくってよ?」
ユーディアは固まった。
リリーシャ姫が指した部屋はユーディアが使っている部屋だからだ。
「その部屋は塞がっています!」
ゴメスは厳しく言う。
このやり取りで、リリーシャに対して不快な感情を持ったようであった。
ジプサムは姫の気持ちが収まりそうにないのを見てとった。
「ごめん、ユーディア、別の部屋に移動してくれる?」
「今すぐ、、、、?」
遠巻きにしている騎士たちも固唾を飲んで成り行きを見守っている。
ユーディアはその夜、ジプサムに一番近い部屋から追い出された。
さらに、護衛のショウの部屋のために、サニジンも追い出されることになる。
「まあ!小さな部屋ね!獣くさいわ!まあしょうがないわね」
ルーリクが怒りをこらえて拳を握りしめている。
クロースは怒りを抜くように、タンタンとその肩を叩く。
ユーディアは半泣きをこらえる。
自分の立場はお姫さまの一言で、ころっと変わるのだ。
ジプサムは姫の機嫌をとるようである。
荷物を出すのにブルースやジャンが手伝ってくれる。
それほど荷物があるわけではない。
「ゴメス、王子から一番遠い部屋をお願い!」
ゴメスは困ったようにユーディアを見た。
「ジャンの隣の部屋なら空いてます」
それを聞き、ジプサムは言う。
「駄目だ。ユーディアはわたしの部屋から遠くではない部屋に。そして、リリーシャ姫のことをはじめの内は助けてほしい。
それでいいか?ユーディア?」
渋々ユーディアはうなずく。
遠くにいってくれるなという気持ちは、嬉しく思う。
それに、リリーシャ姫を助けられるような者はここにはいない。全員男だ。
ユーディアも表向き男ではあったが。
本能的に危険のない者をジプサムは選んだのだった。
「この者はわたしの側仕えのユーディア。あなたの身の回りのお手伝いをさせるが、なにもかもトルクメの王宮内と同様のサービスを期待しないでほしい。
わたしは謹慎の為にここにいる。
男所帯で、たいして相手もできないかもしれないことをあらかじめ御詫びしておく!
本当は、明日にでもお引き取りをいただきたいぐらいだが、あいにく外は雪で、身動きが当分とれないだろう。
ここでは自分のことは自分でするようになっている。
ここに滞在するつもりならば、状況が状況なためにあなたもご理解いただきたい。
その上で、動けるようになるまで、滞在を許そう。
それは初めにわかってほしいのだが、トルクメの姫よ、ご理解いただけるか?」
びしっとジプサムはいう。
それを聞き、リリーシャ姫は眉を寄せるがうなずいた。
実際に王子に会うと、リリーシャが聞いていたベルゼラ国第一王子の印象とずいぶん違う。
なんにも自分では決められないお坊っちゃん王子で影も薄いと聞いていたが。
どうも様子が違うようである。
王子の発言を聞く、騎士たちの様子を見れば、どれだけ尊重されているかがすぐにわかる。
皆、その通りという顔をしている。
リリーシャが不快に思った分、少しユーディアの気持ちもなだめられた。
ユーディアは姫、護衛、その隣の部屋に移動する。
サニジンもひとつずれる。
「やっかいな相手ですね」
サニジンも不快ではあるが、未来の王子の妃になるかもしれない姫である。
王子が王になれば王妃だ。
身分的にも申し分はない。
「レグラン王は実力行使にきたのですね。姫の方からこの極寒に山越えさせて乗り込ませるとは、さすがというか。
ひと波乱もふた波乱もありそうな気がする、、、」
サニジンのその予感はあたっていた。
王がジプサムの妻にと意図するリリーシャの登場で、うまくとれていた均衡が揺らぎ始めていた。
わがまま放題にそだった姫のようである。
朝食は運ばせる。下げさせる。しかも残す。フルーツを食べたいという。三時には紅茶とおやつを食べたいという。
ユーディアはげんなりしながら、食事を引きに行く幾度、なにやら食事に対しての要望というか不満を持ち帰り、ジャンに伝える。
そして、一番にぶちギレたのはジャンだった。
「ここにジューシーなフルーツがあると思うな!あるのはドライフルーツばっかりだ!」
それは朝食の時間だった。
ユーディアが運んで帰ってくると、ジャンがぶつくさいっている。
ジプサム王子はユーディアが帰ってくるのを食べずに待っていた。
ユーディアも角のいつもの席につく。
バンっと乱暴にジャンがユーディアの隣の席に座った。彼も一息ついて朝食をとる。
「ドライの食感が嫌なんではないか?ヨーグルトに混ぜるとかして、朝食にだしたりするのはどうだ?」
ジャンの不満を聞き、ルーリクがにやにやしながら寄ってくる。
基本、自分に関わらないことは面白いものである。
「ヨーグルトなんてあるかっ」
ジャンはブスッという。
「作ればいいんじゃあない?そういえば裏でゴメスが羊を数頭飼っているし」
とユーディアがいう。
「羊の乳はチーズだろ?」
とジャン。
「あれ?ジャンはもしかして、羊の乳をフレッシュで飲んだりヨーグルトにしたことないの?」
それらを聞いて、わらわらと騎士候補たちが集まってきた。
ゴメスもいる。最近はジャンの朝食を食べている。
「ヨーグルトならあるので、それを種にして作りますか。子を産み、ちょうど授乳している羊がおりますので」
ヨーグルトにわあっと歓声があがる。
少し違ったのものを食べたくなってきた頃だった。
その反応に、ジャンは鼻をぎゅっとする。
自分の不甲斐なさをつきつけられたような気がしたのだ。
「菓子は作れるのかよ?」
とクロース。彼も、おやつがあったらいいな、と思っていたのだった。
「作れるが、パン用の小麦だ。無駄にしたくない」
「少しぐらいならいいのではないか?姫に不機嫌になられると困るんだ。
しまいに、ここに直接、談判に来るぞ?」
在庫量を把握しているサニジンが口を挟む。
ジャンは、直接まくしたてられるのは嫌である。
「羊の乳が手にはいるのなら、ヨーグルトに加えて、バターも作ろうよ?菓子作りにバターは必要でしょう?」
とユーディア。
「バターだって?」
ジャンはいう。バターとは王宮では塊で購入するものだった。
高級品で、今回はもう残り少なくなっていたのが気にはなっていた。
なくても命には関わらないが、あった方が美味しくパンを頂ける。
「簡単だって!羊の革袋にいれて、がしゃがしゃとふり続けるんだ!」
とユーディアは振ってみるふりをする。
「なんだったら、姫を誘って一緒に作ったりしてやってくれないか?」
とジプサム王子はいう。
提案の形をとるが、連れていけという命令である。
露骨にジャンは嫌そうな顔をする。
「ユーディアが一緒ならまあ、いいけど」
ジプサムは、暇でわがまなトルクメの姫の扱いを持てあましぎみであった。