世継ぎで舞姫の君に恋をする
44、ユーディアの夜這い (第七話完)
ジプサムは肩で息をして、倒れこんだブルースを見下ろしていた。
ブルースは起き上がれない。
トルクメの姫はこれを千載一遇の好機と見た。
抱えていた羊毛をユーディアの抱える包みに乗せた。
「ジプサムさま!」
ブルースに一瞥もくれずにジプサムに駆け寄り、ハンカチでその顔を押さえる。
「見事な勝利ですわ!」
ジプサムはリリーシャを押し退けようとするが、リリーシャは退かない。
リリーシャに遅れて、見ていた男たちが、ジプサムとブルースに駆け寄り泥雪の中から二人を抱えだす。
「おい、おまえも行ったほうがいいんじゃあないか?そのう、どっちかに」
とカカがどちらかを決めかねて、ユーディアにいう。
ユーディアはリリーシャに付き添われて、サニジンやベッカム隊のルーリク等に支えられるようにして室内に入るジプサムと、トニー隊のギースやハメスに起こされるブルースを見る。
ユーディアはブルースが負ける姿など一度もみたことがなかった。そもそも、ケンカなど見たことがない。
ブルースは強い。彼にケンカを吹っ掛ける馬鹿は普通はいない。
モルガンでもトニーの隊でもそうであった。
ユーディアはジプサムに駆け寄りたかった。だが、既にトルクメの姫がジプサムの側にいる。
ユーディアの入る隙間はないように思われた。
その日の夕食。
ユーディアは、目の前でジプサムを甲斐甲斐しく世話をするリリーシャを見せつけられる。
「自分のことはできますので、リリーシャはご自分の食事をなさってください」
「あら、でもナイフを持つ指が痛そうですから、切り分けて差し上げますわ!」
リリーシャは引かない。
お近づきになれる、女らしさをアピールできる絶好の機会をトルクメの姫は逃そうとはしない。
困ったように、ジプサムはユーディアを見る。
ユーディアは夕食に何を食べたかもわからなかった。ジプサムとリリーシャが気になり過ぎて、何を口に運んだかわからずに皿を片付けていったのだった。
その夜、ユーディアはひとりで風呂に入る。
いつも皆が入り終わるのを待ち、最後に入る。
ジプサムが、ユーディアの胸の傷のことをいってくれているので、いつもひとりではいることができていた。
じっくり温めると、自分の部屋に戻る。
横になっても寝付けない。
ユーディアは寝るのを諦めて起き上がった。
胸がもやもやとして、すっきりしない。
すっきりさせる方法はひとつしかないように思えた。
ユーディアは今まで一度もしたことのないことをしようとしていた。
部屋をでる。4つめの扉がジプサムの部屋の扉である。
リリーシャの扉の前にはショウが腰を落としている。
ユーディアが前を歩くと顔をあげた。
少し驚き、眉をあげるが何も言わない。
軽く叩く。
返事はなかった。
ユーディアは扉を開き、体を滑り込ませた。
奥のベットにジプサムは寝ていた。
「ジプサム、、、?」
その顔に手を沿わせた。
ジプサムは目を覚ます気配がない。
ユーディアは迷う。
ジプサムはディアを妻にしたいと考えているといっていたではないか?
ジプサムはベルゼラ国の王子で、ユーディアは蛮族扱いされることも多い、モルガンの民である。
トルクメの姫の積極的なアプローチは気に入らなかった。
ジプサムが、リリーシャの猛烈な攻めと国と国の圧力に屈する日もそう遠くないように思われた。
ジプサムが望んでも、普通ならモルガンの娘に望めるのは嬪や愛人までだろう。
レグランが愛した最初の妻リーンはモルガン族であった。
リーンは正妃ではなかったではないか。
後宮に馴染めず、この離宮で時折り訪れるレグランを待っていた。
同じ未来がユーディアに待っているのではないか?
ユーディアはジプサムをリリーシャに、他の誰とも共有したくなかった。
そもそも、ジプサムは自分のものでもなかった。
ジプサムに手が届かなくなりそうで、その前に強く自分の胸にジプサムを強く抱き締めたかった。
ユーディアはつい先日、忍び込んだリリーシャがしたように、キスをしようとした。
もちろん、ユーディアは知らなかったが。
だが、ユーディアは唇が触れる前に、手首を捕まれ、強くジプサムに引き離された。
「ったく、寝込みを襲うのはやめてくれないか?」
ジプサムは人の入る気配に気がついていた。この前の一件以来、眠りが浅くなっている。
またリリーシャが忍び込んできたのだと思い込んでいた。
「こんなこと、言わせないでくれ」
ジプサムは極めて不機嫌な顔をしていた。
暗闇でも、窓から月明かりが差し込む少しの光があれば、ユーディアにははっきりと見ることができた。
かあっと真っ赤になる。
捕まれている手首が痛かった。
ジプサムに拒絶されるとは全く思ってもみなかった自分がいた。
急激に心は冷える。
切羽詰まった想いはどこかにいってしまった。
冷静になると男の部屋に忍び込むなんて、所詮蛮族の娘のすることだと思われてもしょうがないように思えた。
ユーディアの体が、嫌悪感をむき出しにした拒絶を受けて、小刻みに震える。
ユーディアの衝動は砕け散った。
自分から求めることも、拒絶されることも、ユーディアは人生で初めてのことである。
「ご、ごめなさい。恥ずかしい、、」
恥辱に震える声を聞き、月明かりに浮かび上がるシルエットを見て、ようやくジプサムは自分が捕らえた娘がリリーシャではないことに気がついた。
「ユーディア?!」
びくっと、ユーディアの体が飛び上がる。
手首を捻ってジプサムの手を振り払う。
「ご、ごめんなさい、、」
ユーディアはベットから飛び降りる。
部屋を飛び出した。
ショウはジプサムの部屋から飛び出したユーディアを見る。
伏せたユーディアの顔は涙に歪む。
ベルゼラの王子はやはり木偶の坊。
再び女に恥をかかせたようであった。
いや、女ではなかったか?と思い直す。
ショウには、自分の主に関すること以外は関心のないことであった。
彼の姫が出てきた時の扉は重く閉ざされたまま動かなかったが、その時と違って側仕えが泣いて飛び出してきた扉はすぐに大きく開いた。
「ユーディア!待ってくれ!」
ショウの前を、ベルゼラの王子が上半身裸の状態で逃げだした側仕えの後を追う。
自分の部屋に逃げ込もうとする寸前に、ユーディアの背中を胸で扉に押し付ける。
ジプサムは怯えた猫のような娘を捕らえた。
離宮で毎日鍛えているジプサムの胸も腕も強くたくましくなっている。
「ごめん、、忘れて、、、」
くぐもった声。
「わたしは馬鹿だ。あなただと思わなかった。わかっていたら、こんなに嬉しいことはなかった。わたしは寝ぼけていた。本当にすまない、、、」
ジプサムはユーディアの頭にキスをする。
ユーディアの弾んだ息が収まるのを充分待ち、ジプサムは背中を押さえる胸を弛める。
「ユーディア、頑なにならないでわたしの方を向いてくれ。でないとここでする」
ユーディアの張りのあるおしりの刺激を下腹に受け、ジプサムの男は存在を主張し始めている。
ユーディアもそれを知ってびくっとする。
「やだ、、」
くるりとユーディアはジプサムが与えたわずかなスペースで体を回転させた。
ジプサムはユーディアが胸にいつもしている晒しがないことを知る。
向かい合えばユーディアのほわっとした胸がジプサムの胸に優しく触れる。
熱い息の触れあうところに二人の唇があった。
ジプサムの目は見たことのないほど、真剣で優しい目をしている。
ジプサムが全身でユーディアにぴったりと体を押し付けていたので、二人の呼吸がそろっていく。
「ユーディア、愛している」
ジプサムはユーディアの唇を奪った。
「あなたの部屋にいれてくれ」
ジプサムは扉のノブを回して、二人はひとつの影になり、部屋に入った。
第七話 完
ブルースは起き上がれない。
トルクメの姫はこれを千載一遇の好機と見た。
抱えていた羊毛をユーディアの抱える包みに乗せた。
「ジプサムさま!」
ブルースに一瞥もくれずにジプサムに駆け寄り、ハンカチでその顔を押さえる。
「見事な勝利ですわ!」
ジプサムはリリーシャを押し退けようとするが、リリーシャは退かない。
リリーシャに遅れて、見ていた男たちが、ジプサムとブルースに駆け寄り泥雪の中から二人を抱えだす。
「おい、おまえも行ったほうがいいんじゃあないか?そのう、どっちかに」
とカカがどちらかを決めかねて、ユーディアにいう。
ユーディアはリリーシャに付き添われて、サニジンやベッカム隊のルーリク等に支えられるようにして室内に入るジプサムと、トニー隊のギースやハメスに起こされるブルースを見る。
ユーディアはブルースが負ける姿など一度もみたことがなかった。そもそも、ケンカなど見たことがない。
ブルースは強い。彼にケンカを吹っ掛ける馬鹿は普通はいない。
モルガンでもトニーの隊でもそうであった。
ユーディアはジプサムに駆け寄りたかった。だが、既にトルクメの姫がジプサムの側にいる。
ユーディアの入る隙間はないように思われた。
その日の夕食。
ユーディアは、目の前でジプサムを甲斐甲斐しく世話をするリリーシャを見せつけられる。
「自分のことはできますので、リリーシャはご自分の食事をなさってください」
「あら、でもナイフを持つ指が痛そうですから、切り分けて差し上げますわ!」
リリーシャは引かない。
お近づきになれる、女らしさをアピールできる絶好の機会をトルクメの姫は逃そうとはしない。
困ったように、ジプサムはユーディアを見る。
ユーディアは夕食に何を食べたかもわからなかった。ジプサムとリリーシャが気になり過ぎて、何を口に運んだかわからずに皿を片付けていったのだった。
その夜、ユーディアはひとりで風呂に入る。
いつも皆が入り終わるのを待ち、最後に入る。
ジプサムが、ユーディアの胸の傷のことをいってくれているので、いつもひとりではいることができていた。
じっくり温めると、自分の部屋に戻る。
横になっても寝付けない。
ユーディアは寝るのを諦めて起き上がった。
胸がもやもやとして、すっきりしない。
すっきりさせる方法はひとつしかないように思えた。
ユーディアは今まで一度もしたことのないことをしようとしていた。
部屋をでる。4つめの扉がジプサムの部屋の扉である。
リリーシャの扉の前にはショウが腰を落としている。
ユーディアが前を歩くと顔をあげた。
少し驚き、眉をあげるが何も言わない。
軽く叩く。
返事はなかった。
ユーディアは扉を開き、体を滑り込ませた。
奥のベットにジプサムは寝ていた。
「ジプサム、、、?」
その顔に手を沿わせた。
ジプサムは目を覚ます気配がない。
ユーディアは迷う。
ジプサムはディアを妻にしたいと考えているといっていたではないか?
ジプサムはベルゼラ国の王子で、ユーディアは蛮族扱いされることも多い、モルガンの民である。
トルクメの姫の積極的なアプローチは気に入らなかった。
ジプサムが、リリーシャの猛烈な攻めと国と国の圧力に屈する日もそう遠くないように思われた。
ジプサムが望んでも、普通ならモルガンの娘に望めるのは嬪や愛人までだろう。
レグランが愛した最初の妻リーンはモルガン族であった。
リーンは正妃ではなかったではないか。
後宮に馴染めず、この離宮で時折り訪れるレグランを待っていた。
同じ未来がユーディアに待っているのではないか?
ユーディアはジプサムをリリーシャに、他の誰とも共有したくなかった。
そもそも、ジプサムは自分のものでもなかった。
ジプサムに手が届かなくなりそうで、その前に強く自分の胸にジプサムを強く抱き締めたかった。
ユーディアはつい先日、忍び込んだリリーシャがしたように、キスをしようとした。
もちろん、ユーディアは知らなかったが。
だが、ユーディアは唇が触れる前に、手首を捕まれ、強くジプサムに引き離された。
「ったく、寝込みを襲うのはやめてくれないか?」
ジプサムは人の入る気配に気がついていた。この前の一件以来、眠りが浅くなっている。
またリリーシャが忍び込んできたのだと思い込んでいた。
「こんなこと、言わせないでくれ」
ジプサムは極めて不機嫌な顔をしていた。
暗闇でも、窓から月明かりが差し込む少しの光があれば、ユーディアにははっきりと見ることができた。
かあっと真っ赤になる。
捕まれている手首が痛かった。
ジプサムに拒絶されるとは全く思ってもみなかった自分がいた。
急激に心は冷える。
切羽詰まった想いはどこかにいってしまった。
冷静になると男の部屋に忍び込むなんて、所詮蛮族の娘のすることだと思われてもしょうがないように思えた。
ユーディアの体が、嫌悪感をむき出しにした拒絶を受けて、小刻みに震える。
ユーディアの衝動は砕け散った。
自分から求めることも、拒絶されることも、ユーディアは人生で初めてのことである。
「ご、ごめなさい。恥ずかしい、、」
恥辱に震える声を聞き、月明かりに浮かび上がるシルエットを見て、ようやくジプサムは自分が捕らえた娘がリリーシャではないことに気がついた。
「ユーディア?!」
びくっと、ユーディアの体が飛び上がる。
手首を捻ってジプサムの手を振り払う。
「ご、ごめんなさい、、」
ユーディアはベットから飛び降りる。
部屋を飛び出した。
ショウはジプサムの部屋から飛び出したユーディアを見る。
伏せたユーディアの顔は涙に歪む。
ベルゼラの王子はやはり木偶の坊。
再び女に恥をかかせたようであった。
いや、女ではなかったか?と思い直す。
ショウには、自分の主に関すること以外は関心のないことであった。
彼の姫が出てきた時の扉は重く閉ざされたまま動かなかったが、その時と違って側仕えが泣いて飛び出してきた扉はすぐに大きく開いた。
「ユーディア!待ってくれ!」
ショウの前を、ベルゼラの王子が上半身裸の状態で逃げだした側仕えの後を追う。
自分の部屋に逃げ込もうとする寸前に、ユーディアの背中を胸で扉に押し付ける。
ジプサムは怯えた猫のような娘を捕らえた。
離宮で毎日鍛えているジプサムの胸も腕も強くたくましくなっている。
「ごめん、、忘れて、、、」
くぐもった声。
「わたしは馬鹿だ。あなただと思わなかった。わかっていたら、こんなに嬉しいことはなかった。わたしは寝ぼけていた。本当にすまない、、、」
ジプサムはユーディアの頭にキスをする。
ユーディアの弾んだ息が収まるのを充分待ち、ジプサムは背中を押さえる胸を弛める。
「ユーディア、頑なにならないでわたしの方を向いてくれ。でないとここでする」
ユーディアの張りのあるおしりの刺激を下腹に受け、ジプサムの男は存在を主張し始めている。
ユーディアもそれを知ってびくっとする。
「やだ、、」
くるりとユーディアはジプサムが与えたわずかなスペースで体を回転させた。
ジプサムはユーディアが胸にいつもしている晒しがないことを知る。
向かい合えばユーディアのほわっとした胸がジプサムの胸に優しく触れる。
熱い息の触れあうところに二人の唇があった。
ジプサムの目は見たことのないほど、真剣で優しい目をしている。
ジプサムが全身でユーディアにぴったりと体を押し付けていたので、二人の呼吸がそろっていく。
「ユーディア、愛している」
ジプサムはユーディアの唇を奪った。
「あなたの部屋にいれてくれ」
ジプサムは扉のノブを回して、二人はひとつの影になり、部屋に入った。
第七話 完