世継ぎで舞姫の君に恋をする
51、雪崩
ユーディアは雪崩の先を行く。
レグラン王が立ち上がった付近で立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
なので、しゃがみこんだ状態でスノーシュウを斜めにし、斜面に対して抵抗を増やす。
スピードが落ちる。
ゴマ粒みたいだった人はみるみる大きくなる。
ようやく地鳴りと轟音を響かせる雪崩にようやく気がつきはじめた。
「なんだあれは!」
「くるぞ!!」
リビエラ兵は硬直する。
雪崩の通り道上にいた。
ユーディアは彼らに叫ぶ。
「雪崩だ!スノーシュウを脱いで、進行方向へ泳げ!抵抗するな!
雪から浮き上がれ!泳げ!
巻き込まれたら空気確保!」
驚愕の顔が落ちるように降りてくるユーディアを見る。そして、その後ろの不気味なものも。
さらに下にいるものには、
「林に逃げろ!つかまれ!」
と叫ぶ。
先程まで戦っていた戦場には、リビエラ兵しかいない。
だが、彼らはユーディアと同じ人であり、悪友なんかもいて、恋人も、妻や子もいる、同じ人間ではないか?
ユーディアは必死だった。
いくつもの顔が通りすぎる。
間に合わないものにはくつを脱げ、泳げと叫ぶ。
間に合いそうなものには、林間!つかまれ!と叫ぶ。
猛スピードで落ちるように降りてくる黒髪の娘が何者か、考える時間はリビエラ兵には残されていなかった。
何人かは、迫り来る恐怖の固まりと通りすぎた娘を見ている間に、雪崩に巻き込まれた。
何人かは、その言葉を聞き、なぜと考える前にスノーシュウを脱ぎすてた。
何人かは、スノーシュウのまま、ベルゼラの騎士たちのように、スピードをあげて降り、娘のいうように林間に飛びこみ丈夫そうな木にしがみついた。
その危険を告げる娘は大きく張り出した雪の固まりにぶつかり豪快に跳んで、転がった。
すぐにスノーシュウを震える指先でほどく。
林間から、ジプサムが飛び出した。
「馬鹿!ユーディア、なんでこんなところに!くそっ」
ユーディアに向って滑りながら、抱えてかばおうとする。
ユーディアは手を伸ばし、彼の靴とスノーシュウを結ぶリボン結びの紐をほどいた。
ユーディアが振り返えると、次々と重い雪に飲み込まれる男たち。
雪は飲み込んだもので膨れ上がりながら、すぐそこに迫っていた。
林間に逃げる間もない。
もう一秒も猶予はなかった。
ジプサムとユーディアは飲み込まれた。
本当に泳げるのか、ユーディアはわからない。雪は重く、叩きつけるように、必死で腕を回す。
「ぶはっ」
ユーディアは流されながらも雪面から顔が出る。
そこに遠くから声が聞こえた。
「ディア!流れに逆らわず泳ぎ続けよ!空気確保!必ず助ける!
騎士たちよ!顔が見えなくなった地点を記憶せよ!!」
そして、ユーディアは再び重く冷たい雪に飲み込まれた。
雪崩は多くのベルゼラ兵や、ジプサム、ユーディアや木立を飲み込み、押し流し、ようやく鎮まる。
そこには、まるで何事もなかったかのような、静謐な、雪だけの世界が広がっていた。
呆然としているのはベルゼラの騎士もリビエラ兵も同様であったが、いつまでも続くかと思う静寂を、林間からレグラン王が飛び出し破った。
林間に逃げ込み助かったものたちに言う。
「埋められたものを助け出す!顔が見えなくなったところに覚えている限り印をつけよ!」
さらに叫ぶ。
「リビエラもベルゼラも災害の前には関係ない!」
それがきっかけとなり、林間から難を逃れた男たちが、雪の上に走りだし、剣を鞘ごと突き立てていく。
弓の矢も突き立てる。
ブルースは遠くクロスボウで雪を狙う。
ユーディアを見失ったところ。
「ジプサムとユーディアの位置だ!雪のなかでは息ができない。一刻を争う!」
騎士候補たちが集り、矢から下流へ向かって剣を鞘ごと雪に深く差し込み出す。
何回目かで、ルーリクの剣が、何かにつっかえた。
「ここだ!皆掘ってくれ」
あちこち突き立てていた騎士候補たちは一斉に雪を掘る。
まず横向きの胴体が現れた。腕を顔の前でクロスし、雪との隙間を作っていた。
「ジプサムさまだ!」
わあっと歓声があがる。
息はしているが気を失っている。
「わたしのユーディアは、、、」
ブルースは震える声でいう。
刻々と時間が過ぎていく。
時間を経るに連れて、生存確率が下がる。
この雪のなかでは、雪どけを待たないと、その体を見つけられないこともある。
抱き上げられたジプサムの手は何かをしっかりと握り込んでいた。
「何かを王子は掴んでいるぞ!」
ギースが叫ぶ。
ジプサムが気を失っても掴み続け、雪に続いていく布端だった。
「リーンのスカート!掘り出せ!この奥にいる!」
レグラン王は叫んだ。
今度はその布が続くところへ、無我夢中で堀り進める。
仲間の救出を終えた、リビエラ兵も手伝った。
それは娘の体に繋がっていた。
三角座りの娘を堀り当てた。
「息は、、、?」
ハリルホが確認する。
「息はしています。生きています!!」
わあっと大歓声が起こる。
いつの間にか、林間に逃れられたり、すぐに助けられたりした多くの生き残ったリベエラ兵が集まって来ていた。
また、雪崩の道にいなくても、レグラン王の、見失ったところを覚えろ!に従い、多くの埋まった友人を救えたものたちだった。
「彼女は我らの命の恩人だ!」
彼らは口ぐちに称える。
レグラン王は息を飲んだ。
彼は、状況を読むのに優れている。
戦で勝ち続けられるのも、機を見るに敏であるからだ。
「わたしの騎士たちよ!まだ埋まるリビエラの友人たちを全力で助けよ!」
リビエラの髭の男が前に進みでる。
「ベルゼラのレグラン王よ、感謝する!
わたしは隊長のジャクソン!
ここはあなた方の厚い人道的救助に甘えさせてもらう!
われらはこの感謝を、祖国が忘れたとしても、忘れない!」
そして、何重にも取り囲むリビエラの男たちに向かっていう。
「さあ、まだのものを探す!小隊ごとにまとまれ!点呼をせよ!誰がいないか確認せよ!」
ジャクソンの掛け声で、兵士の顔に戻った男たちは小隊にまとまり、再び捜索を開始する。
ベルゼラの元にはジャクソンが最後に残る。
「その娘はなんという?」
レグラン王は強く目を閉じ迷いを吹っ切った。
「彼女は、わたしの息子、ジプサムの婚約者、ユーディアだ」
ジャクソンはジプサムの手がまだスカートの裾を握っているのを見る。
「ユーディア、、、。愛されてよい王妃になるだろう!ベルゼラは安泰だな!」
そして、ジャクソンも捜索に加わりに行く。
「王よ、今何かを宣言しましたね」
ハリルホはいう。
「しょうがないだろう?
ユーディアは自分でベルゼラの王子の妻にふさわしいことを証明したのだ!
山の上でもそうであった。
戦ばかりをしているベルゼラにはちょうどいいかもしれん。
それに死んでもジプサムは離そうとしないようだからな!」
レグラン王はいった。
この雪崩を引き起こしたのはベルゼラであったが、助けたのはユーディア。
それにより、ベルゼラは100のリビエラに勝ち、さらにその感謝を得た。
勝っても負けても禍根を残す戦が、感謝で終わる。
そんなことは今だかつてなかったことだった。
レグラン王が立ち上がった付近で立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
なので、しゃがみこんだ状態でスノーシュウを斜めにし、斜面に対して抵抗を増やす。
スピードが落ちる。
ゴマ粒みたいだった人はみるみる大きくなる。
ようやく地鳴りと轟音を響かせる雪崩にようやく気がつきはじめた。
「なんだあれは!」
「くるぞ!!」
リビエラ兵は硬直する。
雪崩の通り道上にいた。
ユーディアは彼らに叫ぶ。
「雪崩だ!スノーシュウを脱いで、進行方向へ泳げ!抵抗するな!
雪から浮き上がれ!泳げ!
巻き込まれたら空気確保!」
驚愕の顔が落ちるように降りてくるユーディアを見る。そして、その後ろの不気味なものも。
さらに下にいるものには、
「林に逃げろ!つかまれ!」
と叫ぶ。
先程まで戦っていた戦場には、リビエラ兵しかいない。
だが、彼らはユーディアと同じ人であり、悪友なんかもいて、恋人も、妻や子もいる、同じ人間ではないか?
ユーディアは必死だった。
いくつもの顔が通りすぎる。
間に合わないものにはくつを脱げ、泳げと叫ぶ。
間に合いそうなものには、林間!つかまれ!と叫ぶ。
猛スピードで落ちるように降りてくる黒髪の娘が何者か、考える時間はリビエラ兵には残されていなかった。
何人かは、迫り来る恐怖の固まりと通りすぎた娘を見ている間に、雪崩に巻き込まれた。
何人かは、その言葉を聞き、なぜと考える前にスノーシュウを脱ぎすてた。
何人かは、スノーシュウのまま、ベルゼラの騎士たちのように、スピードをあげて降り、娘のいうように林間に飛びこみ丈夫そうな木にしがみついた。
その危険を告げる娘は大きく張り出した雪の固まりにぶつかり豪快に跳んで、転がった。
すぐにスノーシュウを震える指先でほどく。
林間から、ジプサムが飛び出した。
「馬鹿!ユーディア、なんでこんなところに!くそっ」
ユーディアに向って滑りながら、抱えてかばおうとする。
ユーディアは手を伸ばし、彼の靴とスノーシュウを結ぶリボン結びの紐をほどいた。
ユーディアが振り返えると、次々と重い雪に飲み込まれる男たち。
雪は飲み込んだもので膨れ上がりながら、すぐそこに迫っていた。
林間に逃げる間もない。
もう一秒も猶予はなかった。
ジプサムとユーディアは飲み込まれた。
本当に泳げるのか、ユーディアはわからない。雪は重く、叩きつけるように、必死で腕を回す。
「ぶはっ」
ユーディアは流されながらも雪面から顔が出る。
そこに遠くから声が聞こえた。
「ディア!流れに逆らわず泳ぎ続けよ!空気確保!必ず助ける!
騎士たちよ!顔が見えなくなった地点を記憶せよ!!」
そして、ユーディアは再び重く冷たい雪に飲み込まれた。
雪崩は多くのベルゼラ兵や、ジプサム、ユーディアや木立を飲み込み、押し流し、ようやく鎮まる。
そこには、まるで何事もなかったかのような、静謐な、雪だけの世界が広がっていた。
呆然としているのはベルゼラの騎士もリビエラ兵も同様であったが、いつまでも続くかと思う静寂を、林間からレグラン王が飛び出し破った。
林間に逃げ込み助かったものたちに言う。
「埋められたものを助け出す!顔が見えなくなったところに覚えている限り印をつけよ!」
さらに叫ぶ。
「リビエラもベルゼラも災害の前には関係ない!」
それがきっかけとなり、林間から難を逃れた男たちが、雪の上に走りだし、剣を鞘ごと突き立てていく。
弓の矢も突き立てる。
ブルースは遠くクロスボウで雪を狙う。
ユーディアを見失ったところ。
「ジプサムとユーディアの位置だ!雪のなかでは息ができない。一刻を争う!」
騎士候補たちが集り、矢から下流へ向かって剣を鞘ごと雪に深く差し込み出す。
何回目かで、ルーリクの剣が、何かにつっかえた。
「ここだ!皆掘ってくれ」
あちこち突き立てていた騎士候補たちは一斉に雪を掘る。
まず横向きの胴体が現れた。腕を顔の前でクロスし、雪との隙間を作っていた。
「ジプサムさまだ!」
わあっと歓声があがる。
息はしているが気を失っている。
「わたしのユーディアは、、、」
ブルースは震える声でいう。
刻々と時間が過ぎていく。
時間を経るに連れて、生存確率が下がる。
この雪のなかでは、雪どけを待たないと、その体を見つけられないこともある。
抱き上げられたジプサムの手は何かをしっかりと握り込んでいた。
「何かを王子は掴んでいるぞ!」
ギースが叫ぶ。
ジプサムが気を失っても掴み続け、雪に続いていく布端だった。
「リーンのスカート!掘り出せ!この奥にいる!」
レグラン王は叫んだ。
今度はその布が続くところへ、無我夢中で堀り進める。
仲間の救出を終えた、リビエラ兵も手伝った。
それは娘の体に繋がっていた。
三角座りの娘を堀り当てた。
「息は、、、?」
ハリルホが確認する。
「息はしています。生きています!!」
わあっと大歓声が起こる。
いつの間にか、林間に逃れられたり、すぐに助けられたりした多くの生き残ったリベエラ兵が集まって来ていた。
また、雪崩の道にいなくても、レグラン王の、見失ったところを覚えろ!に従い、多くの埋まった友人を救えたものたちだった。
「彼女は我らの命の恩人だ!」
彼らは口ぐちに称える。
レグラン王は息を飲んだ。
彼は、状況を読むのに優れている。
戦で勝ち続けられるのも、機を見るに敏であるからだ。
「わたしの騎士たちよ!まだ埋まるリビエラの友人たちを全力で助けよ!」
リビエラの髭の男が前に進みでる。
「ベルゼラのレグラン王よ、感謝する!
わたしは隊長のジャクソン!
ここはあなた方の厚い人道的救助に甘えさせてもらう!
われらはこの感謝を、祖国が忘れたとしても、忘れない!」
そして、何重にも取り囲むリビエラの男たちに向かっていう。
「さあ、まだのものを探す!小隊ごとにまとまれ!点呼をせよ!誰がいないか確認せよ!」
ジャクソンの掛け声で、兵士の顔に戻った男たちは小隊にまとまり、再び捜索を開始する。
ベルゼラの元にはジャクソンが最後に残る。
「その娘はなんという?」
レグラン王は強く目を閉じ迷いを吹っ切った。
「彼女は、わたしの息子、ジプサムの婚約者、ユーディアだ」
ジャクソンはジプサムの手がまだスカートの裾を握っているのを見る。
「ユーディア、、、。愛されてよい王妃になるだろう!ベルゼラは安泰だな!」
そして、ジャクソンも捜索に加わりに行く。
「王よ、今何かを宣言しましたね」
ハリルホはいう。
「しょうがないだろう?
ユーディアは自分でベルゼラの王子の妻にふさわしいことを証明したのだ!
山の上でもそうであった。
戦ばかりをしているベルゼラにはちょうどいいかもしれん。
それに死んでもジプサムは離そうとしないようだからな!」
レグラン王はいった。
この雪崩を引き起こしたのはベルゼラであったが、助けたのはユーディア。
それにより、ベルゼラは100のリビエラに勝ち、さらにその感謝を得た。
勝っても負けても禍根を残す戦が、感謝で終わる。
そんなことは今だかつてなかったことだった。