世継ぎで舞姫の君に恋をする
第二話 王子と舞姫
6、捕虜
ユーディアたちが捕らえられることになる、少し前のこと。
西の空に立ち昇る何本もの黒煙に、東のモルガンの民は震え上がった。
只事ならないことが、黒い空の下で行われているのがわかる。
ぎりぎりとブルースは西の空を見た。
「ユーディア、陣をたたんで移動する!皆に伝えよ!」
東のゼオンはいい放つ。
「父よ!西を助けに行かなければ!!」
ユーディアは言い返す。
ブルースが拳を握りしめて震えるのが辛い。
非常事態に気がついた東の民が、バラバラと族長の周りに老いも若きも集まってきた。
男たちは狩りに使う弓矢や槍を手にし、馬を引く。女は鍬を持っている。
東のモルガンの民は助けに行こうとしていた。
昨日様子を見に行っていたものはまだ戻ってきていなかった。
だが、族長ゼオンは腕を広げて彼らを押し止めた。
「対ベルゼラであれば、彼らを助けるどころか、ここにいれば我らもやられてしまう!
武器が違う!彼らには勝てない!
昨日、ベルゼラの若者が、西も東も同じだと言っていただろう!
一刻もはやく、場所も特定されているこの陣から離れることが、残させたモルガンの生き残る道だ!我らは生き残る道を選ぶ!」
女たちは、西に嫁いだ娘や、その家族や友人たちを思い、すすり泣き出していた。
「早く、移動の準備に取りかかるんだ!」
ブルースは動かなかった。
その目に強い決意が宿る。
「ゼオンさま、わたしは西の族長の三男であれ息子。様子を見てきます」
握る拳が震えている。
ユーディアはそれを見て、いてもたってもいられない。
ユーディアの一番上の姉も西にいた。
父は姉たちも見捨てようとしていた。
穏健派とはなされるがまま、逃げて生きることをいうのか?
父は蒼白である。
十分わかった上での決断だった。
だが、若者たちは自分たちを押さえきれなかった。
「父よ、わたしも様子をみてくる!助けられるものは助ける!」
ユーディアは宣言する。
父は何かを言おうとするが、さらに、ぐるりとユーディアは見回した。
「行きたいものはわたしと共に。武器は持つな。戦いにいくのではなく、助けにいくのだから!戦闘はしない!」
カカ、ライード、シャビ、トーレスといった悪ガキ仲間が前に進みでる。
彼らは、いずれも細身の体ではあるが、草原の大地で鍛え上げられた跳ねるような筋肉の、モルガンの戦士となれる者たちである。
「お前は世継ぎだ!気を付けよ」
ゼオンは言った。
若者たちを押し止めることはできなかった。
6名は、救急道具を馬に積み疾走する。
西の村を見渡せる場所に着いたとき、彼らは見た。
そこが、つい昨日まで人の平和な営みがなされていたことが想像できないほど、真っ黒に焼けた、壊滅的な状態であった。
その黒く燻る村を囲うように、赤い龍の旗が何百とはためき、鎖帷子や槍など、無数の金属が鈍く光を反射していた。
一目で、西のモルガン族は一方的にやられたことがわかる。
彼らは絶望する。
「これは、ひどい、、」
カカが呻くようにいう。
ユーディアも必死で逃げ出したくなるのを押さえた。
既に来たことを後悔する気持ちになる。
手の施しようがないという諦め。
だが、目を凝らすと、村から、赤い旗の間をついて、点々と、こちらに向かってくるものがいた。
「生き残りがいる!」
ブルースが叫ぶと同時に飛び出した。
すぐにユーディアたちも続く。
一方で、ベルゼラの兵も気がつき、追いかけ始めた。
先に逃げ出した者に追い付いたのはユーディアたちだった。
炎に炙られた煤のついた黒い顔をした娘と子供。
ユーディアは馬を飛びおり、子供を抱きとめ保護する。
だが、それで助かった言えるのか。
ユーディアと娘と子供を囲むようにして、
馬上のカカ、ライード、シャビ、トーレス、そして、ブルース。
彼らはクロスボウを構える歩兵に取り囲まれていた。
「モルガンの男がまだいたぞ!殺るか?」
ユーディアは叫ぶ。
「わたしたちは東のユーディアだ!
お前たちと戦っている西のモルガンとは別の部族だ!
よく見よ!武器は何一つ持っていない!
西の様子を見に来ただけだ!
逃れた女と子供を見逃してくれ!
それとも、武器をもたない関係のないものをベルゼラの兵は、いたずらに殺すのか?」
ベルゼラの兵は顔を見合わせる。
モルガン族の区別は西も東もわからなかったが、ユーディアたちの、細かく編み込まれた頭は、彼らの恐怖を呼び起こす。
先程まで、武器はたいしたことがないが、驚異的な身体能力でもって、ベルゼラに抵抗をした者たちと重なるのだ。
それも最初のうちだけであったが。
「捕らえよ」
歩兵のなかでも隊長が言う。
ユーディアたちは捕らえられる。
「娘と子供は助けてやってくれ!」
ユーディアは懇願する。
隊長の顔が歪み、葛藤するのがわかる。
「いいだろう」
娘と子供は解放される。
「シャビ!トーレス!彼らを護衛につけてくれ!」
再び隊長は葛藤するが、うなずいた。
馬から引摺り下ろされていた、シャビと、トーレスは解放される。
シャビには婚約者がいる。
トーレスは一人息子だった。
「ユーディアさま!俺たちはあんたと行く!」
二人は自分たちだけ解放されるのを拒んだ。世継ぎのユーディアと運命を共にすることを決めていたからだ。
それに、ユーディアは女だった。
彼女こそ、ベルゼラの兵に渡すことはできなかった。
「わたしには、カカ、ライード、ブルースがいる。行け!」
ベルゼラの歩兵たちは、若者のリーダーが、彼らのなかでも華奢な体をした若者と知る。
彼らは、無傷で、若くて美しい、誇り高い野生の黒豹のような生きものだった。
歩兵隊は良いものを捕らえたのかも知れなかった。
こうして、ユーディア、ブルース、カカ、ライードは捕らえられた。
西の空に立ち昇る何本もの黒煙に、東のモルガンの民は震え上がった。
只事ならないことが、黒い空の下で行われているのがわかる。
ぎりぎりとブルースは西の空を見た。
「ユーディア、陣をたたんで移動する!皆に伝えよ!」
東のゼオンはいい放つ。
「父よ!西を助けに行かなければ!!」
ユーディアは言い返す。
ブルースが拳を握りしめて震えるのが辛い。
非常事態に気がついた東の民が、バラバラと族長の周りに老いも若きも集まってきた。
男たちは狩りに使う弓矢や槍を手にし、馬を引く。女は鍬を持っている。
東のモルガンの民は助けに行こうとしていた。
昨日様子を見に行っていたものはまだ戻ってきていなかった。
だが、族長ゼオンは腕を広げて彼らを押し止めた。
「対ベルゼラであれば、彼らを助けるどころか、ここにいれば我らもやられてしまう!
武器が違う!彼らには勝てない!
昨日、ベルゼラの若者が、西も東も同じだと言っていただろう!
一刻もはやく、場所も特定されているこの陣から離れることが、残させたモルガンの生き残る道だ!我らは生き残る道を選ぶ!」
女たちは、西に嫁いだ娘や、その家族や友人たちを思い、すすり泣き出していた。
「早く、移動の準備に取りかかるんだ!」
ブルースは動かなかった。
その目に強い決意が宿る。
「ゼオンさま、わたしは西の族長の三男であれ息子。様子を見てきます」
握る拳が震えている。
ユーディアはそれを見て、いてもたってもいられない。
ユーディアの一番上の姉も西にいた。
父は姉たちも見捨てようとしていた。
穏健派とはなされるがまま、逃げて生きることをいうのか?
父は蒼白である。
十分わかった上での決断だった。
だが、若者たちは自分たちを押さえきれなかった。
「父よ、わたしも様子をみてくる!助けられるものは助ける!」
ユーディアは宣言する。
父は何かを言おうとするが、さらに、ぐるりとユーディアは見回した。
「行きたいものはわたしと共に。武器は持つな。戦いにいくのではなく、助けにいくのだから!戦闘はしない!」
カカ、ライード、シャビ、トーレスといった悪ガキ仲間が前に進みでる。
彼らは、いずれも細身の体ではあるが、草原の大地で鍛え上げられた跳ねるような筋肉の、モルガンの戦士となれる者たちである。
「お前は世継ぎだ!気を付けよ」
ゼオンは言った。
若者たちを押し止めることはできなかった。
6名は、救急道具を馬に積み疾走する。
西の村を見渡せる場所に着いたとき、彼らは見た。
そこが、つい昨日まで人の平和な営みがなされていたことが想像できないほど、真っ黒に焼けた、壊滅的な状態であった。
その黒く燻る村を囲うように、赤い龍の旗が何百とはためき、鎖帷子や槍など、無数の金属が鈍く光を反射していた。
一目で、西のモルガン族は一方的にやられたことがわかる。
彼らは絶望する。
「これは、ひどい、、」
カカが呻くようにいう。
ユーディアも必死で逃げ出したくなるのを押さえた。
既に来たことを後悔する気持ちになる。
手の施しようがないという諦め。
だが、目を凝らすと、村から、赤い旗の間をついて、点々と、こちらに向かってくるものがいた。
「生き残りがいる!」
ブルースが叫ぶと同時に飛び出した。
すぐにユーディアたちも続く。
一方で、ベルゼラの兵も気がつき、追いかけ始めた。
先に逃げ出した者に追い付いたのはユーディアたちだった。
炎に炙られた煤のついた黒い顔をした娘と子供。
ユーディアは馬を飛びおり、子供を抱きとめ保護する。
だが、それで助かった言えるのか。
ユーディアと娘と子供を囲むようにして、
馬上のカカ、ライード、シャビ、トーレス、そして、ブルース。
彼らはクロスボウを構える歩兵に取り囲まれていた。
「モルガンの男がまだいたぞ!殺るか?」
ユーディアは叫ぶ。
「わたしたちは東のユーディアだ!
お前たちと戦っている西のモルガンとは別の部族だ!
よく見よ!武器は何一つ持っていない!
西の様子を見に来ただけだ!
逃れた女と子供を見逃してくれ!
それとも、武器をもたない関係のないものをベルゼラの兵は、いたずらに殺すのか?」
ベルゼラの兵は顔を見合わせる。
モルガン族の区別は西も東もわからなかったが、ユーディアたちの、細かく編み込まれた頭は、彼らの恐怖を呼び起こす。
先程まで、武器はたいしたことがないが、驚異的な身体能力でもって、ベルゼラに抵抗をした者たちと重なるのだ。
それも最初のうちだけであったが。
「捕らえよ」
歩兵のなかでも隊長が言う。
ユーディアたちは捕らえられる。
「娘と子供は助けてやってくれ!」
ユーディアは懇願する。
隊長の顔が歪み、葛藤するのがわかる。
「いいだろう」
娘と子供は解放される。
「シャビ!トーレス!彼らを護衛につけてくれ!」
再び隊長は葛藤するが、うなずいた。
馬から引摺り下ろされていた、シャビと、トーレスは解放される。
シャビには婚約者がいる。
トーレスは一人息子だった。
「ユーディアさま!俺たちはあんたと行く!」
二人は自分たちだけ解放されるのを拒んだ。世継ぎのユーディアと運命を共にすることを決めていたからだ。
それに、ユーディアは女だった。
彼女こそ、ベルゼラの兵に渡すことはできなかった。
「わたしには、カカ、ライード、ブルースがいる。行け!」
ベルゼラの歩兵たちは、若者のリーダーが、彼らのなかでも華奢な体をした若者と知る。
彼らは、無傷で、若くて美しい、誇り高い野生の黒豹のような生きものだった。
歩兵隊は良いものを捕らえたのかも知れなかった。
こうして、ユーディア、ブルース、カカ、ライードは捕らえられた。