【短】abyss
昔、映画だったか小説だったか忘れてしまったけれど、女は愛に生きるものなんだ、と言っていて。
そんな風に都合良く立ち回るには、女の人というのはどれだけ苦しい想いをするんだろうかなんて考えたりした。
シズカさんと出逢うまで忘れていたけれど、彼女と頻繁に会うようになってから…またその想いが頭を巡っている。
彼女は、縛られたくないと、奔放でいたいと笑って、常にその無邪気なスタイルを崩さない。
それでも、オレに向かって投げ掛けられる視線は、時折妖艶な仮面の下に隠された素顔をチラつかせていて。


『貴方だけよ…ハル』


気が遠くなるまでぶつけたオレの熱を、まるで包み込むように受け止めた後で呟かれた言葉。
荒い息の中で…それは凄く微かな声だったけど。
泣いているような…何かを堪えているような声色に胸の深い所が締め付けられるようだった。

< 8 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop