【完】さつきあめ〜2nd〜

座った瞬間、一瞬だけこちらを見た気がした。
けれどもその視線はすぐに別のところに向けられて、朝日は連れの男性と何やら話をして笑っていた。
そして直ぐに小林は菫に声をかけて、菫は朝日のところへ向かった。

「へぇ、菫さん指名か。つか自分の店使うのな」

「会長はいつもはONEを利用する事が多いの、接待に。
今日は珍しくTHREEと言いたいところだけど、菫さんが入ってから、結構THREEも使ってくれているの。
何でも昔からの付き合いで、信頼してるって話だけど」

「へぇ~」

ヘルプで着いてくれていたキャストが丁寧に涼に説明してくれて、涼は気のないような返事をしていた。

わたしの視線は、朝日と、その席についている菫へ集中している。

自分の中で、いつか芽生えた感情がよみがえってくる。
これは、光が誰か女の子と親し気にしていた時に芽生えた感情と同じだ。
あの時はわたしはいつだって自分の感情を誰かにぶつけていて、傷ついていた。…けれどいま、言葉にならない。

色々な感情がめぐって、心をぐちゃぐちゃにしていくんだ。

ONEを利用していた。それはきっと個人的な感情だけではなくて、ゆりへ信頼を置いていたからだ。
そして、同じように菫にも信頼を置いている。
わたしが七色グループにいた時、朝日は個人的にわたしへ会いに来た事は何度かあったけれど、誰かを連れてくる事はなかった。
それは信頼を置かれていないということ。
ゆりや菫には任せられても、わたしには任せられない。
こんな時でも、キャバ嬢としてのプライドが呪いのようにわたしを縛り付ける。

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