【完】さつきあめ〜2nd〜
元々小さな子供に愛情を与えるタイプの人間ではなかった。
だから俺も綾もこの人を母親とはあまり思った事がない。
俺の母親はある意味少女のような人で、そしていつまでも女だった。
派手な身なりで、小さな子供がいるのに夜な夜な遊びまわっている母親に、父は何も言わなかった。
父は入り婿で、母親がいなければ会社を持つ事が出来なかったからだ。
何となく、小さな頃から女と男は愛情で結ばれるものではないのだと悟った。

有明茉莉花。
ジャスミンの和名はまりかだ。
兄貴はお店を出してから2店舗目の名刺にジャスミンの花をかたどった。
何を考えて、この母性の欠片もない女の名前にしたのかは不明だが、兄貴に対してもそうだが、俺や綾にさえこの人は母性のない人間だった。

俺たちを愛せない理由を知ったのはもっと後から。

有明家で暮らすようになって、兄貴は少しずつ変わっていった。
そんな彼の生い立ちは、うちに来ていた家政婦たちの話している事で何となくわかった。


「旦那さんの愛人だったんでしょ?」

「体を売る仕事をしていたんですって。
それであの子を産んで、すぐ亡くなったって」

「いやだわぁ~…汚らわしい…」

子供は大人が思っている以上にその場の言葉の意味を理解してる。

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