【完】さつきあめ〜2nd〜
母親がどうして家庭を省みずに遊び歩いていたのか。
母親は父をとても愛していたのだと思う。けれど父は母親の事を愛してはいなかったと思う。
父の愛した人は、違うところにいたのだと思う。そしてこれは俺の予想だが、兄貴の母親に当たる女がその人だったのではないのだろうか。
あの、兄貴を見る、父の瞳が忘れられない。
兄貴の母親、宮沢かすみは夜の仕事をしていて、風俗で働いていた。
兄貴を産んですぐに死んで、兄貴は遠縁の親戚に引き取られたらしい。そして、虐待に似た育児放棄をうけたらしい。だから出会った時の兄貴は自分よりも年下に見えた。
学校に通う歳だったが学校にも通わせてもらえなく、満足な食事も与えられなかった。
出会った頃の兄貴は喋ることも出来なかったし、小学生なのに、小学生の年齢には見えなかった。
俺は家政婦たちの噂話を聞いて、兄貴に酷く同情した。
俺は与えられて生きてきた人間だから、持っていない人に譲らないといけない。
そうきっと俺は知らず知らずに自分が上だと思っていたんだ。
同じ人間で、血の繋がった兄弟だったのに、どちらかが上か下かなんておかしな話だけど
たまに帰ってきて、思い出したように俺に声を掛ける母親がよく言っていた。
「光、あんな他所の子に負けるんじゃないよ。あの子は汚らわしい血が流れてるんだから。
この会社も全部光の物なんだからね、全部譲るんじゃないよ」