【完】さつきあめ〜2nd〜
時は過ぎて
有明家に引き取られた兄貴は、彼が生まれながらに手に入れられなかった’普通’の暮らしを手に入れて
もう、出会った頃のみすぼらしい少年ではなくなっていた。
それどころかきっと母親譲りなんだろう、女ウケのする顔で、王様のような気質の性格も生まれ持ったもので、何より俺に持っていない何故か人を惹きつける魅力を彼は持っていた。
街で見かけたら、何故か足を止めてしまう。そんな存在感。
誰にも話していないんだけど、父の書斎で俺は彼の母親の写真を見た事がある。
学生の頃、父の持っている本の中で探し物をしていた時、ひとつの書物からはらりと落ちて行った写真。
宮沢かすみ。兄貴は顔も覚えていないと言った。けれど大切そうに、けども誰にも見つからないように、宝物のように本の隙間にしまわれていた1枚の写真の中には、綺麗だけれど、憂いを帯びたような切ない笑顔を浮かべた女が写っていた。
「ひかるー、あさひー…」
何の事情も知らなかった頃の小さな綾は、いつも俺と兄貴の後をついて回った。
自分自身の母親に、俺は幻滅していただろう。
けれど屈託のない笑みを俺たちにぶつける綾は、血の繋がりとかを越えて、ふたり共通で守らなければいけないものだったんじゃないかな?
だから複雑な環境下に置かれても、俺たちはずっと一緒にいた。