【完】さつきあめ〜2nd〜
「あの人は知らないんですね…」
「宮沢くんがよく酔ったら自分の生い立ちを話してくれる事があってね。
自分は顔を見た事のない母親を憎んでいるって。でも本当は分からないって言ってた。
憎んでいるのに、ずっと愛してほしかったのかもしれないって。母親の話をする時の宮沢くんは小さな子供みたいで、いつも強気な瞳が、寂しそうになる。
あの子が色々な女の子と遊んでいたのも、自分が手に出来なかった母性を探しているんじゃないかなって、今になってみれば思うよ。
愛されたくて、愛されたくて、堪らない子供のように僕の目には映ってね。その姿が僕には悲しかった」
「あの…宮沢さんのお母さんってどんな人だったんでしょうか…」
「僕が知ってる宮沢くんの母親は…孤独な人だったかな…。
知ってると思うけど風俗嬢をやっていた人で…。今の時代じゃ少ない話かもしれないけど、親の借金を返すために働いていたみたいだよ。
そう言った背景からどちらかと言えば明るい人ではなくて…
でも宮沢くんにとてもよく似ていて、綺麗な人だった。
明るくはなかったけれど…有明くんの父親と出会ってからは人が変わったようになってね。
結婚するんだって話を聞いた事がある。でも結局有明くんの父親は違う人と結婚しちゃって、彼女は未婚のまま宮沢くんを産んだって聞いたのは、彼女がお店を辞めて連絡を取れなくなって、死んだって聞いた時だった」
「じゃあ、光が手にしていた幸せを、あの人が手にしていた可能性も…?」
それはきっと彼が、望んでも手に入れられなかった家族という形の。
普通に母親がいて、父親もいる。そんな大半の人が与えられる普通の幸福があったのかもしれない。