【完】さつきあめ〜2nd〜
幼い子供の問いかけに、ユキさんは泣きそうな顔で笑って、その柔らかい体で俺を包み込むように抱きしめた。
大きな屋敷の中には家族とくくられるものとは別に、お手伝いさんが何人かいた。
もちろん俺に優しい人ばかりじゃなくて、でもそんな中でもユキさんは特別優しい人で、笑うとしわくちゃの顔になって、もっと優しい表情を見せるのだ。
余談だが、その影響もあってか、今でも若かろうが歳をとっていようが、笑顔がくしゃっとなる女が、俺は好きだ。
そんなユキさんが15歳の時死んだ時は、本当に悲しかった記憶がある。
あの人は、俺に初めて優しくしてくれた、女性だった。
それでも母親という存在は特別なものだ。
父親の隣には母親が
死んだと思った母親がいた。幼かった俺は、綾と光の母親ならば、自分の母親でもある、と勘違いしていた時期もあった。
昔から死んだと聞かされていたのに、生きていたのか、と。
有明茉莉花。光や綾乃実母にあたる人で、俺にとっては義母にあたる人だ。
今にして思えば、可哀そうな人だったと思う。
何故かなんて理由は知らない。けれど彼女はテレビや絵本の中で見た母親とはかけ離れていて、もちろん俺が友達の家で見たお母さんと呼ばれる母親ともかけ離れている人だった。