【完】さつきあめ〜2nd〜
浴びせられる罵倒に、泣き喚きたい気持ちでいっぱいになって
それでも心の底からこの人を憎めなかったのは、どこかでまだ期待していたから。
普通の母親がくれる愛情を、母と名のつくこの女がいつか自分にもくれるのではないかと期待していたからだ。
けれど、自分の子供さえ上手に愛せない女。愛人だった女の子供など、疎ましい存在にしかなりえなかった。
時が過ぎて大人になっていく過程で、自分が何者かとはっきり分かって、自分の本当の母親と父親の関係も理解出来るようになった。
それでも家には居させてくれて、父は光と綾と同じように俺に何不自由のない暮らしをさせてくれた。
中学校に上がれば、何かモテたし、少し悪い先輩とつるんでそれなりに彼女も出来た。
女が好きだった。いつも期待してた。俺に注がれる愛情があればあるほど、満足出来るような気もした。
何人もの女の子と付き合って、別れてを繰り返して、自分は女に母親のような愛情をいつも求めているのに気づいた。
けれど、母が子供に与えるような、どこまでも透明で曇りのない純粋な愛情はない事もどこかで気づいていた。それでも寂しくて、どこかにそんな無償の愛があるって信じたくて、俺は何人もの女を抱いた。
そんな俺とは対称的で、光は真面目で成績なんかもよくて、誰にでも分け隔てなく優しくて、彼女が出来れば、ずっとその人を大切にするタイプだった。
だからやっぱり、俺と光では生まれ持ったものが違うのだと思った。
俺は風俗嬢だった母親の血を継ぐ、汚い存在。
けれど、光の存在は俺の中でどこまでも澄み切っていて
嫉妬なんてするのさえおこがましいほど、特別なものだったんだ。