【完】さつきあめ〜2nd〜
出来るだけ明るく振舞った。
それがわたしの仕事。
今はヘルプ。たとえ美月が明らかに佐竹を騙していても、それを咎める資格なんてない。
その時ちょうど指名のお客さんが来たようで、黒服がわたしを卓から抜きに来た。
「さくらさんお願いします」
「はい。
じゃあ佐竹さん、今日はごちそうさまでした。とても楽しかったです。
ゆっくりしていってくださいね」
グラスを合わせると、切ないほどの涼しい音がホールに響いた。
佐竹は美月を見つめる優しい瞳で、わたしを見る。
「こちらこそありがとうございました…。
実は…美月ちゃんからさくらさんには意地悪をされてるって聞いていて…どんな子かと思ったら全然想像していた子とは違ったよ。
たくさん話を聞いてくれて、ありがとう…本当に楽しかったよ…」
佐竹の言葉に、胸が痛む。
美月がわたしを意地悪だとか言ってる事なんて正直どうでもいい。
美月にそう見えたのなら、わたしは本当に意地悪な人だったのかもしれない。
わたしたちの仕事は確かに嘘をつくこと。ひと時の夢を見せる事でもあったし、限られた時間をお金と引き換えに一緒に過ごす事でもあった。
けれど…ついてもいい嘘とだめな嘘がこの世界にもある。