【完】さつきあめ〜2nd〜
「そんな事思ってない!」
「さくら…頼むよ。
俺はお前といると苦しいんだ…」
わたしを見つめる、朝日の顔が歪んでいく。
それを見て、また涙がこみあげてきてしまう。
守ると決めたのに、傷つける事しか出来ない自分を
好きなのに、こんなに好きな人を苦しめる事しか出来ない自分を…。
体に力が入らない。けれどやっとの思いで立ち上がって、扉に手を掛ける。出ていこうとした、時だった。
「ごめん……」
朝日はソファーに腰をおろしたまま、頭を抱えていた。
いつかのあの日みたいに。
朝日はわたしを抱いた後、決まって辛そうな顔をしていた。そんな朝日に、どうしてあの時も今も、言葉を掛けてあげられなかったのだろうか。
あなたを愛してる。ただその一言だけで良かったのに。
躊躇って、傷つけあう間に、わたしたちは大切なものをいつだって置き去りにしてきたね。
「美月には、俺から連絡を取る。
ちゃんと店には出勤させるようにするから。
優しいお前の事だ、どうせまた世話なんて焼いて美月を探しにきたのはわかったのにな。
お前が男といるだけであんなに怒って、やっぱり俺はどうかしてると思うよ。
本当にごめんな、さくら」
ごめん、なんて言葉を言わせたいわけじゃなかった。
ただただ朝日を抱きしめて、愛してると伝えたかった。
それがどうしてもこの時出来なかった。
朝日を愛して、朝日の為に頑張ると決めた事に後悔をした日はない。
けれどね、朝日、この夜の事だけは後悔してる自分がいる。そしてずっと後悔し続けていく事になると思う。
想いを大切にしすぎた事。想いが行き場を失くした事。行き場の失くした想いだけ、いつも隣にあったあの日さえ愛しく思える日が来るのならば。