【完】さつきあめ〜2nd〜
⑩
次の日も、その次の日も結局美月は出勤しなかった。無断欠勤して実に1週間が過ぎようとしていた。
双葉で働くキャストたちは「もう来なくていい」と口々に言っていたが、愛とるなは出勤するたびに美月の心配をしていて、それを見ていると心が痛くなった。
佐竹は相変わらず双葉に来ていたし、そのまま帰る日があれば、気まぐれにわたしを指名する日もある。美月を心配していると同じ事を話して、1セットで帰って行く。それがまたわたしの目には切なかった。
「さくらさん、お願いします」
指名はその日何組も被っていた。
小さなストレスになっていたサイトへの書き込みはぴったりと止んで、代わりに双葉のスレッドには美月の悪口が並ぶようになった。
金の亡者やら、キャストに嫌われてるやら、黒服と出来てるとやら、これももしかしたら美月に恨みのある双葉内部のキャストが書いている可能性が非常に高い。けれど、美月の場合、お客さんらしき書き込みがちらほらと見られた。
それは佐竹のように美月と連絡が取れないという心配の書き込みもあったし、美月に騙された、というような内容の書き込みもあった。詳しく書かれていて、やたらリアルで、指名してるお客さんの可能性が高かった。
黒服抜かれて、向かったテーブル。
「新規で、さくらさん指名みたいなんですよね。若いお客さんでしたけど…VIPで指名ですよ」
「新規?」
メディアに顔出しをしていると、それを見て指名される事が度々ある。
会った事もないけれどVIPに指名が入ることも珍しい事ではない。双葉の客層からして、でも案内してくれている黒服は、余り良い顔をしていなかった。
「さくらさんも…ホストとか行くんですね…」