【完】さつきあめ〜2nd〜
⑫
8月終わり。
美月は相変わらずマイペースで、けれど売り上げに拘らなくなって
今月はレイも相当頑張っていたけれど、2か月ぶりにわたしがナンバー1になりそうだった。あれだけわたしへ敵意を向けて、ライバル心をむき出しにしていたのに、美月は人が変わったように売り上げにも指名にも拘らなくなった。
由真は「期待してたんだけどね」とちょっと困った顔をして笑っていたけれど
むしろ美月は誰かのヘルプに着くのさえ嫌がってはいなかった。評判が良いとは言えたものではなかったが。
8月の終わりの日曜日に、朝日の誕生日が来る。
涼と綾乃がサプライズで朝日の自宅へ行く事を連絡してくれて、最初は朝日に合わせる顔がないと思って戸惑っていたけれど、誕生日のケーキを選んでいくうちに少しずつ楽しみになってきた。
拓也が猫の方がいいと言っていたので、立体的な猫のケーキを注文した。
色合いは余り良いとは言えなかったけど、ロシアンブルーだよな、とそれをイメージしたケーキを注文した。
気高い猫のイメージのロシアンブルー。
それはわたしの中の朝日のイメージだった。
当日、ケーキを受け取ったら、自分の誕生日みたいにウキウキしている自分がいた。
誕生日って祝われるのも嬉しいものだけど、大切な誰かの笑顔を想像する事はもっと嬉しいものなのだと思う。
涼が家に行くとは言ったけれど、わたしと綾乃が行くとは伝えていない。朝日は果たして喜んでくれるだろうか。
あさひくんおたんじょうびおめでとう。まるで子供の誕生日祝いのように、真っ白い文字でチョコレートのプレートには書かれている。去年、これを朝日へ見せた時本当に嬉しそうな顔をしてくれた。