【完】さつきあめ〜2nd〜
「うちは……
毎年家族の誰かが誕生日だとホールのケーキを買ってきたり、その日はごちそうだったりプレゼントをもらっていたよ…」
その話をしているうちに、ふと厳しかった母の顔を思い出した。
厳しくて、苦手だったあの人。けれどわたしの中には記憶がある。
誕生日も、クリスマスも、ひな祭りも、当たり前のお祝い事をしてきた事。それがずっと当たり前だと思っていたけれど、それって思っている以上に恵まれていた事も
目の前の綾乃は、そんな当たり前の環境で育ってきていないのだから。
「へぇ…楽しそう。涼も誕生日祝いを家族でした事がないって言ったら驚いていたけど…
大体お母さんが家にいるって事自体珍しいしね。お父さんからは毎年お金貰って好きな物を買いなさいって言われたわ
でもね、一度幼稚園の頃だったかな?誰かから誕生日パーティーを家族でやるって話を聞いてね、それがすごく羨ましくて光と朝日の前で泣いちゃって、ふたりを困らせたっけ」
クスクスと小さく笑いながらその話をする綾乃は、いつのもの綾乃ではなくて
まるで小さな子供のようだった。
「それで?ふたりはどうしたの?」
「朝日と光でケーキを作るって言いだしてね。
キッチンをぐっちゃぐちゃにして、お手伝いさんに叱られてねぇ…。
作ってくれたケーキって言うのもスポンジは市販の物で、生クリームもしぼれば出てくるタイプの奴だったんだけど、やっぱり子供には難しくて
すっごく不格好なケーキが出来たの。
それでもそれがすごく嬉しかった…。
キャバ嬢になって大きなケーキを貰っても、あれ以上に嬉しいものなんてなかった」