【完】さつきあめ〜2nd〜
誕生日を祝ってもらった事のなかった綾乃と涼が並んで歩いて、笑っている姿を見ていると安心する。
きっと誰よりも綾乃を大切にしてくれる事だろう。
祝ってもらえなかった何年ぶんもずっと、涼なら祝ってくれるはずだ。
ふたりの後を少し後ろで、朝日のマンションへ向かう。
一時期は住んでいた事もあるのに、それが遠い昔に思える。
マンションが近づくごとに、心臓が高鳴っていく。一緒にいて、一時期は生活も共にしていたのに、今はわたしたちを繋ぐものは何もなくて、すごく遠い存在のように感じていたから。
マンションのエントランスの前で、足を止める。その様子に気づいた綾乃が、わたしの方に駆け寄ってきた。
「さくら、だいじょうぶ?」
「……ん」
足が微かに震える。
怖かった。この期に及んで、自分のプライドを守るばかり。結局わたしは何かをして、朝日に拒否される事を1番恐れている。
当たり前のように受け入れられていた昔を知ってるから。わたしの前で困った顔をする朝日を見たくなかった。結局自分を守る事ばかり考えていて、相手の気持ちなんて考えちゃいないんだ。真っ直ぐに見つめる綾乃は心配そうに視線を落として、まるで助けを求めるように涼の方へ振り返った。
涼は小難しい顔をしていたと思う。
そういう時の涼の表情って、結局は何が1番最善策か考えている時の顔だ。
涼はこちらへやってきて、わたしの手を引いた。思っていたより強引な力で、涼と呼ぶ綾乃の声がそれを止めているように感じた。