【完】さつきあめ〜2nd〜

「色々考えるのは分かるんだけど、気持ちってシンプルなものでいいんじゃないかな?」

やっぱり言葉を選ぶように喋る涼。手を引く涼の足が、一歩前へ踏み出してくれた気がした。

「今日はただ単におっさんの誕生日を祝いにきた。それ以外ないでしょ?
それなら自分の中にある色々な感情は忘れちまって、ただおっさんが生まれた事を祝ってあげりゃーいいじゃん」

「涼……」

「さ、行くぞ」

やっぱり涼は思いやりがある人だよ。
わたしの迷いとかを全て取っ払って、シンプルな答えを出してくれる。
不思議と背中を押してくれる。わたしの中では特別な存在なの。

涼に手を引っ張られて、朝日の家へ向かう。
オートロックのインターホンを押すと、不機嫌そうな朝日の声がフロアに響いた。

「おう」

「あーおっさん!久しぶり!」

「おっさんおっさんうるせぇぞ…。
俺は忙しいんだ、開けるから用ならさっさと済ませろ」

「忙しいって…誕生日に家にいて暇そうじゃん…」

「なっ!!!!お前がいきなり今日来るって言いだしたから予定空けておいた……」

朝日の言葉を遮って、涼はマンション内にずかずかと入っていく。
今日わたしと綾乃が来ると言う事は、涼は伝えていないらしい。
むしろ朝日は涼と綾乃が付き合ってるということすら知らない。
でも、もう余計な事を考えるのは止めた。涼がさっき言った通り、シンプルな気持ちで十分なんだ。
もしも罵声を浴びせられたとしても、今日お祝いが出来なかったらそっちの方がずっと後悔しそうだから。

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