【完】さつきあめ〜2nd〜
「名刺も、さつきの花ですか?」

「あぁ、そうだな。名前も皐月だから」

「そう……ですか……」

酷い裏切りを受けたと思っていた。
傷つけるだけ傷つけて、ごみのように投げ捨てたのだと思っていた。初めは。
でもこの人がそういう人じゃないっていうのは一緒に過ごしていく日々の中で分かっていた。
大好きだった人を裏切ったからしたかった復讐。
けれどこの人は、さーちゃんの事をちゃんと愛していた。この新店が、その愛の証だった。

「これも…愛した人の名前ですか?」

「あぁ。昔さつきって女がうちのグループにいてな。
別に意識して好きになってるわけじゃねぇけど、俺と同じで家庭環境に恵まれねぇやつでさ。好きだったんだけど、あの時の俺ってどうしようもないやつだったから結局さつきを裏切ることや傷つける事しかしてやれなくってよ。
それで別れた数日後に事故であっけなく死んでやんの。
さくらんときと同じで、俺って後悔しか出来ない人生ばっかり送ってやんの。
でも本当に、付き合ってた時は好きだったんだよ…」

朝日はちゃんと人を愛する人だから、そんな事くらい分かっていたのに。

遠くから見ていたら、わからない事ばかり。勝手に朝日を悪だと決めつけて、ゆりさえも恨んだ。さーちゃんは、ずっと朝日やゆりを憎んでも恨んでもいなかったのに。
さーちゃんはいつも朝日の話をする時は優しい顔をしていたし、あんなに幸せそうだった彼女を見たこともなかった。
それに朝日はちゃんと傷を負っていたし、後悔していた。後悔するばかりの人生の中で、きちんとこの人が安らぎを感じていた夜はあったのだろうか。
ちゃんと見てあげられたのだろうか。

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